愛は惜しみなく与う
短編



「はぁー…息苦しいな…」


私と近藤さんたちとの付き合いは、武州に居た頃からになる

私は今まで剣に生きてきた。
剣しかとりえが無かったし、皆と一緒に生きていくために剣に生きると決めた

ここまで歩き続けた過程で
沢山の命を切り捨て、見捨ててきた
仲間の命を救うことができなかった時もあれば、
敵の命を見境なく奪った。時には命乞いする者も全て。

その事実に疑問を持つことは無かった
悲しみを割り切ることで悲しみと感じなかった筈なのに
最近は私はどこかおかしい

私は今、
何がしたいんだろう
何ができるんだろう
何をすればいいのだろう

そんな悩みを抱えるうちに息の仕方を忘れたかのように息がしづらい毎日

こんな悩みを誰かに言えるわけでもなく、ぼんやりと過ごす
けれど、いつまでもこのままでいいはずがない

どうしたもんかと悩んでいると、障子の前に人影がひとつ

この気配は…


「土方…さん?」

「おう、ここ開けてくんねぇか?」


土方さんの言葉に疑問に思いながらも障子を開けると、凄い高さになる書類の束を両手一杯に抱えた土方さんが目に入った


「今日はここで書類を片付ける。これは副長命令だ」

「えっと…もしかして、総悟に部屋ぼろぼろにされたとか?」

「違ぇよ。俺だっていつも油断してるわけじゃねぇ」

「じゃあ何で?」

「……煩ぇ、静かにしてろ」


何がなんだか分からないが、邪魔をしたら駄目だと感じ、刀だけ抱えて部屋を出ようとするとするりと伸びてきた手に腕を掴まれた


「どうかしましたか?」

「そこに居ろ」


ただその一言。
それ以降何を言っても土方さんは答えることなく仕事に集中している

何もすることがない私はただ土方さんの背中に背中を預ける
少し吃驚したような土方さん
けれど土方さんはそれに関して何も言わず仕事を再開した


そういえば…
土方さんは昔からこうだった
私が悩んだり、総悟に苛められていじけてるとき、
何をするでもなく私の隣に居てくれた
私に何かを聞くでもなしに、ただ傍に居る
そんなことが私に何か目には見えないものを与えてくれた

不器用な土方さんらしい優しさ

そっか…土方さんは気づいてたんだ

私が何かを独り抱え込んでることに

そう思えば少し嬉しいような照れくさいような気持ちになって
土方さんの背中の温かさが異様に心地がよく感じる


「……トシ兄」


久々に昔の呼び名で呼んでみるとぶっきらぼうになんだ?と返してくれる
あの頃とは違うものばかりだと思ってた
けれどあの頃と変わらないものも確かにあると感じることができる


「ありがとう」

「何のことだか分からねぇな」

「ふふっ…トシ兄らしいね。でもありがとう」

「馬鹿か」

「馬鹿でいいよ」


私が辛いとき、苦しいときはトシ兄が立たせてくれる
前を向かせてくれる
私が泣きたいときは黙って肩を貸して思う存分泣かせてくれる
だからこそ、私はこの息苦しい世界で生きていける


すうっと息を沢山吸い込んで
思う存分息を吐き出す


呼吸をするってこんなに簡単だったんだ
こんな感情知らなかった

好きがいっぱいで、とても嬉しい
仲間が居る、
家族と呼べる仲間が居る

大好きな仲間、だいすきな家族

そんなことで…

(こんなにも生きやすい)

悩む必要はない
だって
私の生きる場所はこの人たちの隣にちゃんとあるのだから


暫くして、総悟までが部屋に来て
近藤さんが来て…

何かが解決したわけじゃない
だけど、私の心は自然と軽くなる

貴方達が居る、

それが私の生きる意味、生き抜く理由。

今を生き抜く力をくれるのは、いつだって貴方達だ


(よし、今日は皆で宴会だ)
(えっ?)
(パーッとやりやしょう)
(土方さんッ!)
(たまにはいいだろ?)


【貴方達が居るこのぬくもりの中で】



――――――――――――
誰夢というものに囚われず、温かい何かを表現したかった故の作品
家族愛的な何かを感じ取って頂ければ嬉しく思います
「ぬくもり」そのキーワードがとてつもなく愛おしいです
私達人間は決して独りではなく、どんなときでも、気付かなくても誰かに思われているんです
私の小説からそういったものが伝わればと思い書いてます
どうか、忘れないで下さい。私も皆さんも独りではないということを・・・






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