愛は惜しみなく与う
短編






「ゲホッ…ゲホッゲホッ」

「っ大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。というか千鶴ちゃん心配しすぎ。そんなに心配しないでよ」


渇いた咳を心配し過ぎて、
沖田さんに笑われてしまった。

沖田さんと私が新選組を離れて大分経つ
私達2人はあれから沢山の時間を共にしてきた。
あそこに居た時とは違う、静かな時
沖田さんは最初は新選組から離れるのを心底嫌がっていたけれど、
でも今となっては2人の時間を楽しんでくれているように思う

そして、屯所に居た時とは違う接し方ができるようになった

2人で散歩に出かけたり、
ゆっくり他愛のない会話を始めたり、
今ではこの時間が愛しく感じる

一緒に過ごせる幸せを命一杯感じて、私は今、確かに幸せだと思う

でも、幸せには限りがあるもの
彼の体はもう限界に近いのだろう
日に何度も咳をする。苦しそうな姿を見るのが正直辛い

なんで彼なのだろう?
どうして彼なのだろ?

彼はただ、
近藤さんの、
新選組の役に立ちたかっただけ

人をからかったり、意地悪をしているようで
実は優しい沖田さん
それは共に過ごしてきた時間が私に教えてくれるもの

所詮、かみさまは居ないということなのだろうか?
私の大切な人を、こうも簡単に奪おうとするのだから




「じゃあ、ゆっくり休んでてくださいね」


そう言い残して沖田さんの部屋から出て行こうとすると、
私の腕を沖田さんが力強く掴んだ


「どうしたんですか?」


私がそう尋ねると、彼は儚さを感じさせるような笑みで僕の側に居てと
そうはっきり言うものだから
私は顔を真っ赤にしながら頷いた

でもそんな様子を見て、やはり沖田さんは笑っていた


それから何をするわけでもなしに、
私達はお互いの手を握っていた。

彼の手は、昔のまま
剣を握っていた時のままで、なんだか泣きたくなってしまった。

彼自身は何も変わってないのに、
病状は変化するばかり、

私になにができるだろうと考えても、
側に居て、彼の世話をするぐらいしかできない自分に腹が立つ

こんなに好きなのに、こんなにも愛しているのに
私は何ができるんだろう

そう考え出すと止まらなくて、
自然に涙が溢れ出てしまった


「千鶴ちゃん…泣いてるよ」

「すっすみません、今泣き止みますから…ごめんなさい」

「今、千鶴ちゃんを泣かせてるのは僕だ」

「…そんなんじゃな「でもね、これから先僕はもっと君を悲しませてしまう」


沖田さんが目を伏せる
私はそんな姿に余計に胸がギュッと苦しくなって、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。


「ねぇ、千鶴ちゃん。今から言うことよく聞いてね」


最初は、彼が何を言っているのかが分からなくて、
ただただ私は頷いていた



まずはじめに絶対に伝えたいことを言うよ
僕は長年何も振り返らず、近藤さんのことだけ考えてきた
でもある日君が来てからそれが変わった

誰にでも向ける笑顔の裏に、人一倍泣き虫な君が居て、

君が笑ってたら、僕だけを見て笑って欲しいって思うようになった
君が泣いていたら、僕が涙を拭ってあげたいと思うようになったんだよ

今までなんで僕が、僕だけが労咳になんてなったんだろうって
居るかどうかも分からないかみさまを恨み続けてたけど
だけど、君に出会えてそんな考えも消えうせた

僕は、君に出会えて幸せだったよ
泣けるぐらいに好きな人ができて、
心の底から愛しいという感情を知れて、


………僕は幸せだった


君を独り残して逝ってしまう僕を許して欲しい


愛してる…


静かな部屋の中に私の涙が零れ、
沖田さんの凛とした声が響く

それを聞き終えた私は沖田さんの手をしっかりと握る


「なんで…なんでそんなこと言うんですか」

「言えなくなったら後悔するだろうから…ごめんね。本当に」


こんな時にだけ、諭すように、優しく微笑むから私は何も言えなくなってしまう
沖田さんは狡い

ねぇ、沖田さん
死なないで、お願いです
私を置いていかないで…
そんな言葉をいえたら楽かもしれないけど、それでも私はそれを言葉にはできなかった



それから数日後、
彼は静かに息を引き取った。
彼の死は私にとってはことが重大すぎて、
なかなか本当に彼が居ないとは思えない数日間だったけど、
でも数日経って、やっともう彼は居ないんだと理解できた。

どこを探しても彼は居ない

ぬくもりも、姿も、どこにもない

それが悲しくて、
彼の部屋を避けていたけれど
でも何かに導かれるように私が沖田さんの部屋に足を踏み入れると
机の上に何かの紙が置いてあることに気付いた


私はもしかしてと、何か期待を込めるような足取りで机へと向かった



おはよう、こんにちは、こんばんは

どれかな?
でもまぁ、この手紙を君が読んでるということは
僕の声でそれらを、
これから君に伝えることができなくなったってことだよね

本当にごめんね

君を残していってしまう僕を許してください

残される人間が一番辛いってことは分かっていたはずなのに、
君に一番辛い思いをさせてしまうだなんて…

前に話したときは、
居るかどうか分からないって、かみさまのことを言っていたけど、
この際信じることにするよ
そうすれば、また君に逢える可能性があるからね

そして本題

実は君に黙って庭に桜の木を植えました
見てくれると分かると思うけど、何か出てるでしょ?
実はね、花には花言葉というものがあるらしくて
桜にもあるらしいんだ
僕の調べたところによると、桜には「私を忘れないで」という花言葉もあるらしくて
こんなこと思うのは女々しいって思うけど、
それでも君に僕のことを忘れてほしくなくて植えました

どんなに季節が過ぎようと、
どんなに離れていようと僕の君に対する気持ちは変わらないよ

ただ、君だけを愛してる

いつかまた、出会える日が来るのなら
今度はきっと君を幸せにすることを誓うよ

さよならは言わない

またいつか、桜の木の下で…



私は手紙を全部読み終えると足早と庭まで駆ける

手紙に書いてあったとおり、
庭には木が植えてあることが分かって

何故か、無性にも涙が出てきて止まらなかった


「っ…こんなに泣いてたらまた笑われちゃうかな…」




私からも…



またいつか、桜の木の下で…





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薄桜鬼で沖田さん
ゲームやったことないんで、完璧捏造です。すみません。
いつかやりたいゲームです。
今後の展開まで考えてしまっている私ですが、書ける自信がない…
転生輪廻パロを何かしらで書きたいです。










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