愛は惜しみなく与う
短編




「ただいま」


我が家の玄関をそっと開けると、
誰も居ないはずの室内から飛び出てきたのはあの子だった

私目掛けて思いっきり飛びつく彼を、
少しよろけながらもしっかり抱き込む
腕の中で懸命に私に抱きつく彼は微かに震えていて、
少し弱弱しいイメージを私に持たせた

普段の明るさからは考えられない程の豹変振だ

だがそんな彼もきっと彼の一部であることには変わりなく
私の前でこんな姿を見せる彼が私の心を掻き乱し、鷲掴みにするのだ

「どうした?」

「どうしたじゃないっ…今日、早く帰ってこれるって言ってたじゃないッスか」

「ごめんね、紀田くん」

彼の目には溢れそうなほどの雫が溜まっていた
私は申し訳ないという気持ちをどうすることもできずに、
ただ必死に彼の頭を撫で続ける

彼は淋しがり屋だ
といっても普通の淋しがり屋という言葉では表しきれない程に…
なんでも独りという時間が怖いらしい
孤独を極端に嫌う
だからこそ昼間は、
独りにならないように
周りに人が存在してくれるように馬鹿やっているように見える
女の子に声を掛けるのだってきっとそうだろう
所詮は人恋しいのだ
それは母親に求める愛のようなものなのか
それとも違うのか
それは分からないけれど、
今その事実を知っているのは私だけで、
私がその淋しさを、孤独を拭い去ってあげれたらと強く思う

「ねぇ、貴女は何処かに行ってしまったりしませんか?」

「しないよ。紀田くんが嫌になるまで一緒に居てあげる」

「…嫌になるわけないじゃないッスか。
俺は貴女なしでは生きられない。
俺は…貴女が、貴女だけが好きなんです。
子供で餓鬼な俺で、独りが怖いような情けない人間だ
だけどそれでも貴女を慕う気持ちは変わりません。

俺と一緒に最期まで生きてください」

いきなり言われた愛の告白に吃驚する時間は長かったけれど、
あまりに真剣な瞳で話す彼に動揺を隠せない
子供子供と思ってきたし、
まだまだそんな年齢じゃないと思っていた私だったけど、
私の推測は誤っていたようだ

女の子を見たら声を掛けられずに居られない彼だけど、
いつもはふざけている様な姿を見せる彼だけど、
そして独りの時間が何よりも怖い彼だけど、

時折見せる大人の表情に私は魅了されてしまったのかもしれない


独りが怖い彼と私とで歩ける未来があるのなら



(紀田くん、これからもよろしくね)
(当たり前です)


彼が淋しいというのなら、
私が淋しさを埋めるあたたかさとなろう
彼が怖いというのなら、
私は彼の傍に居続けよう

きっといつまでたっても、
彼の傍についてあげれるのは私ぐらいなものだから



独りが怖い



――――――――――――――――
企画サイト「へタレ、ラブ!」様へ提出








- ナノ -