愛は惜しみなく与う
短編





「あづ〜」

「五月蝿い」



ぶー
可愛い声で俺の理性を崩そうとする彼女は少しだけ卑怯な気がした
まぁ、故意に理性を崩させようとしているわけではないと思うけど
それでも男にはいろいろ耐えなければならない場面があるということを考えて欲しい
でも彼女の顔を見てると全てがどうでもいいやって思えるほどに
俺は彼女に依存している



「扇風機こっちにあててよ」

「やだよ。俺様もあたりたい」

「佐助は幸村のところにでも行ってしまえ」



彼女は結構というか大分俺の扱いが酷い
簡単に俺を罵倒するし、俺と居なくてもいいみたいな言い方をする
なんだか俺様ばっかり、彼女を好きみたいで項垂れるときもあるけど
まぁそんな彼女が好きになってしまった俺の負けだということでしょうがない
でもそんな彼女も可愛いところはあるようで
じゃあもういい、旦那のところに行ってくる
そうやって言って立ち上がるフリをしてみせると俺と目は合わせなかったけど、
それでも彼女の左手はしっかりと俺の服の裾を掴んでいた


可愛いな〜なんて思う俺は学校では公認の彼女馬鹿だ



「あついっ、もう夏なんて嫌いだ。一生冬になればいいのに」

「あのね、あんた冬のときは全く逆のこと言ってたよ」

「じゃあ、春か秋。あんなに過ごしやすい季節他にないね」

「そこはさ、彼氏の佐助が居たらどんなときでも生きていけるとか言おうよ」

「佐助のことはさ…普通に好きで、凄く好きだけど。でもこれがどんなときでも生きていける理由にはならないよ」



「まぁね」



俺もそう思う
だけど、せめて嘘でもいいから言ってくれれば
俺の気持ちも嬉しくなるんだけどね
まぁそんなこと言わない彼女が彼女であって、
こんなとこにも酔っているのだけど…



「佐助はさ、どの季節が好き?」

「俺様?」

「うん、俺様のこと」



そうだなぁ〜と悩んだように見せかけてはいるものの
実際のところ悩むようなことではない
俺はどの季節だってそこまでの不自由さは感じていないし
どの季節も同じぐらい好きで同じぐらい嫌いだ
だから正直どうでもいいんだけど、
彼女の反応がどうでるかを見てみたくて、困るであろう返答を考えた



「俺はさ、季節とかどうでもいいよ。あんたと一緒に居れるならどの季節だって色付いたものになるだろうね
きっと......
でもそうさなぁ、もしも一つに絞れるとしたら冬がいい」

「なんで?」

「なんでって決まってんじゃん」



【冬はあんたと一緒に密着していられるからね】



「はっ、ばっかじゃないの?」



ありとあらゆる暴言を吐きまくりながらも
顔は耳まで真っ赤にしている
そんな顔していたって怖くもなんとも無いのに
彼女は無駄な抵抗をやめはしない
彼女はクールぶっているし、一見だらしなく映るかもしれない
でも実際のところクールなんてものじゃなくて
とても初心で可愛いところが沢山ある
まぁそんな可愛いところは俺様だけが知っていればいいのだけれど、
たまにこんな可愛いところをみせてくれるから
隣りに居て、過ごしていて飽きない



嗚呼、


やっぱり俺は彼女に依存している



そんなことを頭の端っこで考えながら
暑い暑いといっている彼女を後ろから抱きしめた
最初こそ抵抗していた彼女だったけど、
それでも最終的には俺のことを受け入れてくれた



「ねぇ、2人で海に行こうか?」

「今から?」

「そう今から、海に行って沢山2人で遊んで、夜は花火して帰ってこよう」



きっときっと、
こんな日々もこれから先の俺達の未来ではいい思い出になるのだろう
だから俺はそんな思い出をひとつでも多く作りたくて
彼女に提案した


彼女は少し照れながら頷くので
俺は彼女のことを抱きしめる腕に力を込めた





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