愛は惜しみなく与う
短編





私の髪を梳く様に触り始めるスクアーロ
でも、スクアーロの髪は女である私なんかよりよっぽど綺麗だ
それでも彼の手は止まる事が無い
彼が触っている理由は綺麗さを求めているものとは違うものなんだと思う
もっと他に、何かきっとあるんだと思う

それは私には分からないけれど、
こうやって好きな相手に髪を触られるのは嫌いじゃない。
好きでもない相手にやられたら話は別なんだけど、
それでも彼は好きな相手だからそれでいいんだ

次第に髪へ向かっていた手が背中に回り、私はスクアーロにすっぽりと包み込まれる形になる



「どうしたの?」

「お前不足だ」



私が苦笑すると、スクアーロが不敵な笑みを浮かべた
スクアーロのそんな表情が好きな私はただ押し黙る



「そんなこと言うとまたXANXUSさんに殴られるよ。ワインの空き瓶で」

「う゛お゛ぉい!そんな色気のねぇこと今言うなよ」

「じゃあ、スクアーロ御希望の反応は?」



「嘘でもいいから、私はスクアーロが好きとでもいっときゃいいんだよ」



嘘でもいいんだ?

そういうと焦って、

やっぱ駄目だ
本気で言え

そんなスクアーロ


可愛いスクアーロ、焦ったスクアーロ、怒ったスクアーロ、欲深なスクアーロ
貴方の見せるどんな表情も逃したくなくて
私はただ、笑ってスクアーロを見つめる


彼は私のことを愛してくれている

それがどの表情からも受け取れて
私はつい、嬉しくなってしまうのだ



「何笑ってんだぁ?」

「幸せだなぁと思ってね」

「俺もだぁ、お前を離したくねぇ…ていうか離せねぇから覚悟しろ」

「心得ております。私は必死にスクアーロにしがみつくよ」



そうしてまた私の髪を弄り始めるスクアーロ

私はスクアーロと出あった時はまだ、髪はショートとまではいかないけど、
セミロングという具合だった


けど


今ではもう立派なロング
スクアーロみたいに綺麗な色はしていないけれど、日本人らしい黒髪


彼がXANXUSさんの験担ぎとして髪を伸ばしているように
私も彼の験担ぎとして髪を伸ばし始めた


彼はそのことに気付いていないだろうけど、
それでも彼はこの髪をわりと気に入ってくれてると思う



「綺麗な髪だな、いい匂いすんぞ」

「シャンプーの匂いじゃない?いつも使ってるから」

「なんつーか、こういう匂いってそそられるよな」



無邪気に笑うスクアーロ
彼はこういう言葉をストレートに言ってくる
日本人はこういう言葉に弱いということを知っているのだろうか?
否、無意識で言っているに違いない


でも、他の誰に甘い言葉で囁かれても嬉しくない
彼だから、好きになったんだし
これからも彼だけを愛してる



「私はスクアーロの髪のほうが好きだよ
綺麗な色、そして綺麗な髪質、スクアーロの匂い。全部全部が好きだから」



「俺はお前の髪のほうが好きだけどな、俺にはない独特の良さがある

だが、一番好きなのはおまえ自身の全てだぁ」



「ありがとう」



彼が私の体と心を掴んで離さない
だから私も精一杯彼を捕まえていよう


どんなときでも、彼を感じて居たい
ただそれだけの為に私は今日も彼を捕まえる



いつだって、どこでだって、私を追いかけて捕まえてくれるのは紛れも無い彼ひとりなのだから




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