愛は惜しみなく与う
短編





「三成、私にもう少し力があったなら変わっていただろうか?」

「力があっても無くても変わらないこともあります。
千鶴様、これを見て、貴女が自身の心を痛める必要は無いのです」


そうだな

そう一言発する千鶴様の横顔は、
今まで見たことがないような痛々しいもので、
涙を見せることは無かったが、泣きそうに笑っていた
その表情を見て分かる。
彼女がどれだけこの惨状を見て自分自身を責めているのかが。

私たちの目の前の光景は地獄絵図を目にしているかのようなものであった

私たちはそれこそ沢山の死体を見てきたが、
これは酷い

無残に切り離された四肢。
抉り出された臓器。
八つ裂きにされた胴体。

どれもこれも敵をただ倒す為の殺し方ではない
殺しを楽しむ為の下衆な殺し方だ

だからこそ彼女は悔やむ
自分が早く来て、この村を襲った山賊共を仕留めていたらと…

彼女は今、

自ら唇を噛み締め血を流し
拳を強く握り締め血を流し
心の涙は枯れるほどに泣いた

私には何もできない

私を生かしたのは他の誰でもない彼女
私に生きる為の光を与えたのも彼女
私が今、生きたいと思えるのは、
彼女の為に生きたいと思えるからだ

貴女の為ならなんだってできる

貴女にそんな顔をさせたくなんかない
貴女はどうやったら、笑ってくださいますか?

気づくと私は私より少し背の低い彼女の頬に手を触れた

普段なら絶対に触れることなどできない
彼女に触れることなど神を相手にすることと同等
それだというのに、
私の手は自然と真っ直ぐに彼女の頬に触れていて、
戸惑うより先に口が動いていた


「泣かないでください」

「私は泣いてないよ、三成」

「泣いています、泣いているではないですか…心が泣いてます。
貴女がどんなに民を思っているかは分かっています。
けれど、私は民より先に貴女には傷ついて欲しくない」

「三成…私はどうすればいい」


いつになく弱弱しい彼女
私は強い彼女に憧れた筈で、惹かれた筈
けれど目の前に居る弱い貴女にも、
私はどうやら魅せられてしまっていることが分かる
どうしようもない衝動が起こる
抱きしめたい、もう少し触れていたい
こんなときに不謹慎かもしれない。
けれど弱い彼女も強い彼女も、全てが愛しく愛してしまっている


「私の願いを聞いてください」

「願い…?」

「そうです。これから先、私と共に生きてください」

「どういう意味だ」

「共に生きてくださいということは、これから先
お互いに勝手に死ぬことは許されないということです。
ですから、何があっても私は千鶴様に黙って死にません
いつまででも貴女が許してくださる限り、私は共に居ます
だから、たとえ誰もが死ぬ事態になっても
私だけは最後の最後まで共に居ます
その代わり、千鶴様
貴女も勝手に死なないと誓ってください
どんなときがあろうとも、生きて生きて、生き抜いてください」


「お願いします」


「身勝手な願いです。
けれど私はそんな願いをしてしまうぐらいに、
貴女に生き抜いて欲しいのです。何時も共に生きていたいのです」


目を見開いて私を一身に見つめる千鶴様

自分勝手すぎる程身勝手な願い
沢山の人間が死のうと、沢山の人間を殺そうと
私には千鶴様以上の価値がある人間などあると思えない
貴女が生きてくださればそれでいいのです。
どんなに貴女が苦しかろうが私が居ます
どんなに人が死のうと、
私だけは必ず生きて、そして傍に居ます
だから悲しまないでと、泣かないでくださいと
それだけは伝えたかった

貴女が心を痛める必要は無いのです。

貴女は何もかもを抱え込みすぎる

重荷を分けてください
共に背負わせてください

そんなことを言ってもひとりで頑張る貴女

そんな貴女だからこそ、傍に居て支えたいと思う


「三成…ありがとう。何があってもお前だけは死ぬなよ」

「承知しております。千鶴様も約束です」

「ああ」


泣いては居ませんか?
苦しくはありませんか?

私はただ、貴女をお慕いしております

それを伝えることは今の私には叶いませんが、
近くで貴女を支え、共に生きて生きたいと願っています


嗚呼、


やはり貴女の傍には、いつまでも私という人間が在って欲しい

そう願うのはおこがましいかもしれないが

それでも貴女は笑って私を手招きするから

私は貴女から離れられない、そして離れたくないと思うのだ




((月が綺麗ですね、千鶴様))
((そうだな))


そう、それはまるで貴女のようで…




――――――――――――
長編「あい×あい×あい」の戦国パロでございます
強さを秘めつつ、人が傷つくのを嫌い、自分を責める女主
そんな女主の強さも弱さも全てを共に背負い、共に生きたいと願う三成
三成は明らかに女主に対し恋心を抱いてますが、あくまで部下として彼女の傍に居ます
伝えたいけれど、それは伝えず。部下として共に生き抜くつもりです
本編とはまったく違う内容で、キャラも変わってます。
半兵衛出したかったけど、そこは我慢
本編とは切り離してお考え下されば幸いでございます。






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