愛は惜しみなく与う
短編



最近、思うことがある
嘘とホント。どっちが本当でどちらが嘘か
ある意味、有幻覚と幻覚とで
どっちが有幻覚でどちらが幻覚だと言っているようなものだ
あれ?やっぱり少し違うかな?
考えすぎて少し分からなくなってきた

私は騙されやすいというか、なんというかよく「好き」だといわれる
決して自信過剰なつもりはない
ほとんどが騙しで、嘘なんだと思う
最初の頃はそれに乗ってしまって、喜んだりしていたのだけど、
最終的に殺されかけたときはもう人を信じれなくなっていたように思う

でもそんな私にも好きな相手は居て、
何事にもまっすぐ前を見つめるその瞳や
不器用なりの優しさに私は惹かれてしまったのだ

彼は幹部の一人だし、私はペーペーの平隊員だからお近づきにもなれないけれど、
見ているだけで私の心は満たされた

そんな風に思っていたのに、私は最近幹部の方の一人に付きまとわれている
なんというのかな、これも嘘のひとつだと思うんだけどなーと思いながら
私は彼が幹部ということもあって、拒否をできていない


「なぁ、お前マジ可愛いよな。王子にぴったりじゃね」

「いや、冗談よしてください。私はベル様に見合うお姫様になんてなれません」

「いや、なれるって。俺が認めんだからいいじゃん」


いやいや、日本人特有の謙遜という技を使って拒否ってみるけれど、
それをただの遠慮だと思っていらっしゃるベル様はジリジリと私に詰め寄る
私は一歩ずつ後ろに退くも、後ろにはもう壁しかなくて
追いやられてしまった

今思う、彼の好きは本当の好きなんだろうか?
好きだといってくれるならあの人じゃなくてもいいんじゃないのか?
一回そんな考え方をしてみる
ベル様みたいな人と付き合えたとして、
私は所謂玉の輿
父も母も感激するだろう
けれど私には思い人が居る
でもでも、こんなに思ってくれてるベル様が居る
嘘かもしれない。からかっているだけかもしれない

けれど、

そんなことを思い描きながら目を開くと、
目の前にベル様の唇が迫ってきて、私は思わずひとこと


「スクアーロ様っ」


何故、今彼の名前を呼んでしまったのだろう
何故、何故、どうして
貴方は今、呼んだ瞬間ここに来てくれたのだろうか?

私は自然と涙が溢れた


「ベル、てめぇ何してやがった?」

「いいじゃん、こいつをどうしたって。マジ俺好みだし」


「お前がどんな女を好きになろうが迫ろうが関係ねぇ
ただな、こいつを泣かせることだけはすんじゃねぇ
こいつは、10年まえから俺の、俺だけの女なんだよ。これっきり、もう手は出すんじゃねぇ」


憧れのあの人が今、なんと言った?
私はパニック状態の頭で必死に考えようとするも
そんな状態で考えられるはずもなく
ただただ、赤子のように泣き喚いた

怖かった、恐かった
好きでもない人に迫られることがこんなに怖いだなんて思わなかった
ベル様はひとつ舌打ちを残すと部屋からは足早に去っていき、
私とスクアーロ様、2人だけが部屋に取り残されていた


「怖かっただろぉ、大丈夫だ」


優しく頭を撫でてくださる
そのあたたかさが本当にやさしいもので、私は余計涙が溢れた
そんな私におろおろしつつも、そのぬくもりで私は包み込まれた


「あの言葉はなぁ、嘘じゃねぇ
10年前のリング戦のときから、お前だけを見てきた」

「リング戦…のときからですか?」


私はそんなときから私を見ていただなんてあまりにも信じられなくて、目をぱちくり


「あの時、俺が大怪我した時だぁ。その時傍で何時間も何日も世話し続けてたのはお前だって跳ね馬に聞いたぞぉ」

「だって、あれは心配でしたから」

「それだけ心配してくれる奴が他には居ねぇ、お前しか居ねぇよ。
ずっとお前を見てきた。笑った顔も困った顔も、全部全部が愛しくて堪らねぇ」

「あと、もうひとつ」

「なんだぁ?聞いてばっかりだぞぉ」

「なんで私が呼んだらすぐに来てくれたんですか?」


スクアーロ様は固まって、でも照れながら答えてくれた
そんな表情をはじめて見る私のほうも顔を真っ赤にさせていた


「ずっと見てたって言っただろう?ベルに口説かれてたところも見てた。
俺を必要とするなら俺は現れようと思っていたんだぁ
ベルが好きになったんならあいつと幸せになればいいと思ってたが、
お前が俺を必要とした。だから出てきたんだぁ

もう今更離すなんてできねぇぞぉ」


愛しくて、愛しくて。
恋しくて、恋しくて。

彼のぬくもりが堪らなく心地いい

ずっと貴方の隣だけを願ってきた
貴方だけを追いかけてきた
その貴方が傍に居る。目の前に居る

私は今、私の人生全部の運を使い果たしたんじゃないかと思うほど満たされていた


「まだ、お前の返事を聞いてねぇぞぉ?」

「返事ってなんですか?」

「う゛おぉい、返事は返事だぁ。愛してるって俺が言ってんだ。それに対する答えだ」

「スクアーロ様、絶対分かって聞いてますよね?」


にやりとニヒルな笑みを浮かべるスクアーロ様
絶対に私の気持ちを知ってて言わせようとしているんだ
そんな彼に口をパクパクさせつつ、
いつか言えるときがあったらと思っていた一言を発する


「スクアーロ様、Ti amo.」


吃驚したような顔を見せるスクアーロ様
まさかイタリア語を話すとは思っていなかったんだろう
いつか言いたいと思っていた一言
なかなか言えなかった一言

それを言った私にスクアーロ様は優しく私の唇を奪った

何故か怖いという感情はまったくと言っていいほどなく、


愛しさだけが私を満たす


(その、様っていうのやめろぉ)
(スクアーロでいい。拒否権はお前にはねぇ)
(す、すす…スクアーロ?)
(……襲われてぇのかてめぇは)
(そんな、理不尽な)

<<愛しさも恋しさもすべてすべては貴方から>>




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企画サイト「usignuolo」さまへ提出






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