愛は惜しみなく与う
短編





お互いがお互いに体を預け合う
その体勢から静かに目を瞑ると、そこには安心感があって
彼女のあたたかさを感じることができる
きっと、この世で一番某があたたかいと感じることができるのはこの場所で
この場所こそが某の居場所であると確信して言える

んっ

そう身動ぎしながら呟く彼女に愛しさを感じながら
躊躇いがちに彼女の髪を手にとってみる

さらさらと柔らかい髪をとっても
何をとっても某には見合わないような気がする
けれど彼女が某を求めてくれる
それだけで某は生きてゆけるのだ

この気持ちをうまく言葉にしたいのに、
それがなかなか、かなわない
口下手といえばそれまで、
けれどこの溢れ出る思いを口にできたらと何度も思う

いとしさともどかしさが重なり合って、
むず痒い気持ちが膨れ上がる


「……あ、れ?ゆきむら?私、寝てた?」


無言で頷くと、笑って重かったでしょ?と一言
彼女のその一言一言が、
某の心を揺さぶることを、彼女は分かっているのだろうか?


「私ね、夢を見たんだ」

「どんな夢でござろうか?」

「私が生まれ変わって、幸村の心臓になるの」

「某の?」

「うん、幸村の一部になって幸村の為に生きるの。素敵でしょ?」


こういうとき、どんな言葉を発せばいいのだろうか
溢れ出る感情は底知れないのに、うまく口に出ない
そんな口下手な某のことを分かっているんだろう
静かに某の頬に彼女の手が触れた


「某は、今のままでいいでござる」

「なんで?」

「貴殿が某の一部となったとして、
そうなったらもう貴殿とはこうして話せないではないか
こんな風に触れ合うこともできない、某にはそれが耐え難い」


「幸村…ずるい」


頬を染める彼女が堪らなく愛おしい
うまく伝えられる言葉が無い
もどかしくて、もどかしくて、堪らない
伝えられないから、傍に居たい
傍に居ることで変わることがある

今更彼女の元を離れるということは某にはできなくて
照れる彼女を、思いっきり抱きしめた


彼女と居ることで変わった自分が居る
きっと今までもこれからも、
一緒に居れば今よりもっと好きになれる何かが彼女にはあって

手放せないと思ったときにはもう遅く

某は、彼女に心酔していた


【いとしさともどかしさと】


(なんかさ、幸村って積極的になってきたよね)
(貴殿のせいでござるよ。某の心を乱すのはいつも貴殿でござる)

(初心だ初心だと思っていた彼はもう居なく、ただ彼の愛だけが私に注がれた)






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