愛は惜しみなく与う
短編





僕にはひとり、気になってる子が居る。
気になってるといっても、ただの興味や関心だけからくるものだけじゃなくて
もっと違う、そんなものじゃなくて

そう、きっとこれは恋心

やる必要のない、
きっとその子じゃなくても他の人がやるであろう仕事を、
ただ必死にやろうとする姿だとか
僕ら隊士が傷を負ってきても、どれだけ血を浴びようとも、
どんなときも笑顔で、


「生きていてくれてありがとうございます」


誰も言わないその一言に、僕はどれだけ救われてきたのだろうか
失いたくない。初めてそう思った
弱弱しいその体を守りたいと思ったのは1回や2回では済まない
彼女が笑うから頑張れるんだ
どんなときも笑っておかえりって言ってくれる
そんな彼女に心を奪われてならない

君の瞳に映る僕はどんな風に見えてる?

僕の瞳に映る君は、他の人を映すときとは違う見え方をするみたいだ


「沖田さん?何かありましたか?」


ついさっき、千鶴ちゃんに頼んで彼女を呼んでもらった
どうしても言いたい言葉がある
命には限りがある。
それはみんな同じだけど、でも僕の命は他に比べたら短いものだろう
だから後悔しないように伝えたい
ちゃんと僕が言えるうちに伝えたい


「あのね、君に言いたいことがあって」

「なんですか?」


そう首を傾げる目の前の彼女
その行為が僕の心を掴んで放さないことを君は知ってるのだろうか?
きっと、知らないよね

ねぇ、僕は―


「この前、ある本を読んだんだ。
それは簡単な異国の言葉を日本語に訳したものなんだけど、
けど、でもどうしても君に教えたい言葉があったんだ」


【アイ・ラブ・ユー】



その一言を言うのにどれほど苦労したか…
君は首を傾げて困った顔
当たり前だ、異国語なんてこの時代に知ってるほうが珍しい
でも、どうしても君に伝えたかったんだ


「その、あい・らぶ・ゆー?っていうのはどういう意味なんですか?」


「…僕は、君が好きだっていう意味だよ」


その瞬間、君は頬を真っ赤にさせて俯くから、
どうしても君の顔が見たくて近づいてみる
僕が君の顔を上げさせて見ると、君は恥ずかしそうに目を逸らすから
僕は堪らなくなって、君の体を抱きとめた

伝えたい言葉がある
いつもふざけてばかりの僕だけど、
ごまかしてばかりの僕だけど、
君と生きてく為に伝えたい言葉が山ほどあるからひとつずつ伝える
笑った君も、今初めて見る恥ずかしそうな君も
全部全部を知りたいと思うのはいけないことだろうか?
人を好きになるってきっとこういうこと
その人の全てを知りたくなって、独占したくてたまらない


「僕はこの通り、生憎人間というものができてないような人間だけど、
それでも譲れないものがある。それが君だよ。
僕なんかと君みたいなひとが全部の面で重なるわけがないと思う。
でも傍に居て欲しい。一緒に生きて欲しい。
欲張りかもしれないけど、どうしようもないんだ。
何者からも君を守ってみせるから、だから僕と一緒に生きてくれないかな?」


少し、少しだけ。
声が震える。体が震える。
人を斬ることに迷いなんかないのに
今はこんなにも緊張してる。怖いって思ってる
でも、彼女の言葉が欲しくて彼女を見つめてみると
顔を真っ赤にしながらも、いつものように僕に笑いかける

そして―


【あい・らぶ・ゆー】



必死に勉強して覚えた僕の発音とは少し違って、
震えながら、小さな声だったけれどでもそれでも分かる
僕は嬉しくて嬉しくて、彼女を抱きしめる力を強めた


「…わたしでよければ、沖田さんの傍に居させてください。
沖田さんの言った、
「あい・らぶ・ゆー」の意味が私は貴方が好きです。ならもう一回いいます。

【あい・らぶ・ゆー】

私、沖田さんが好きです」


必死に覚えた異国語だったはずなんだけど、
その後に発せられた「私、沖田さんが好きです」の日本語の方が、
やっぱり僕にはしっくり来て
僕はまた言いなおす

その繰り返しがなんだかこそばゆくてしょうがなかったから、
だから僕はごまかすように咳をした

ただごまかす為の咳だったのに、
目の前に居る彼女は本気で心配するから、
なんだか申し訳なく思いながらも
心の底から嬉しいと思ってしまったことはしょうがないと思う

僕はいま、たしかに、しあわせだと思う


守りたいものができた。
代えのないただひとり、唯一の好きな女性
僕が今、しあわせな分、
きっと、ずっと彼女をしあわせにすると強く強く心から思った




―――――――――――――――
企画サイト「べた惚れ」さまに提出






- ナノ -