愛は惜しみなく与う
短編




俺は満たされていた。

仲のいい友人と言っていいかどうかは知らないが、
それなりに心の許せる悪友が居て、
俺だけのことを考えて、少々前の言葉で言うと忠義を尽くしてくれる、
そんな信頼できる奴も居る
そしてなにより、俺は初めて心から愛しいと思える奴ができた。

そいつと居ると、疲れを感じていたはずの体は疲れを知らない体へと変化する
そいつが笑うと、胸が締め付けられて、抱きしめていたくなる
そいつが泣くと、逆の意味で胸が苦しい、そしてどうしたらいいか分からなくなる

俺の心をここまで乱す奴を俺は他に知らない。

でもって、そいつは無茶をしすぎる
夜遅くまで仕事に励みすぎて、体調を崩したり
体調を崩したまま、無理しようとしたり・・・
だからこんな風にして倒れちまうんだよ。


「Are you all right now?」

「…うん大丈夫…かな?」

「疑問系に疑問系で返したら駄目だろうが」

「うん、そうだね」


へへへ
そんな風に弱弱しくも笑う彼女をどうしようもなく抱きしめたくなった
何があるとかじゃねぇけど、
ただそう思った
いつしか、こいつがこんな風に無茶して、
俺を独り置いていっちまうんじゃないかとか、
本当に柄でもないことを思ってしまったりしちまった

一旦そう思っちまったらなかなか頭ではその想像を削除しきれず、
俺は横になっている彼女の手を取って、ギュッと握り締めた。


「政宗?どしたの?」

「いや…なんでもねぇよ」


誤魔化しきれていないのが分かりつつも、
そんな様子を見て、黙っていてくれる。
こいつの優しさに感謝した。


昔、親が死んだときもそうだった。
昨日まで普通に温かかったその大きい手のひらが、
その日になってみると、
生きている人間の体温では考えられない程に冷たくなっていた。

当たり前っちゃ当たり前だよな。
死んでんだから。

でも、今でもその冷たさが異様に感じられる。


だから、どうしてもこいつの温かさを感じて居たくなる。
冷たくないと確認して、生きていると確認する
見ていて生きてるかどうかなんて分かるっていうのに、
必ず体温を確かめちまう

俺の弱さがそこにある

でもこいつはそんなもん全て受け入れて、
俺を好きだと言った。
だからこそ、俺はこいつから離れられない。


「政宗、私はどこにも行かないよ」

「分かってる」

「私ね、これからも無茶とかしちゃうと思うんだ
だけど、絶対に政宗より先に死なないから、置いてかないから、

だからね

いつまでも、この手を握ってもらえますか?」


「………何が何でも離しゃしねぇよ」


そういうと、目に涙溜めて笑うから、
俺はというと、愛しくてしょうがない彼女にキスをした。


「I love you 」

「当たり前だろうが 」


彼女の体温が感じられる距離に居よう
彼女の悲しみを感じられる距離に居よう
彼女の喜びが感じられる距離に居よう

できるだけ長く、彼女とともに居たい
できるだけ多く、彼女と触れ合っていたい

彼女の見せるどんな表情も見ていたい

彼女が俺を望むのなら、俺は何としてでも彼女の隣りで感情を共有していたい





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体温のなんちゃらかんちゃらは私の実話です。
政宗といいつつ、英語がほとんど無いのは、私が苦手だからだったり…









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