愛は惜しみなく与う
短編





あるとき、ミーの想い人が言った


「みんながみんな、幸せになれる方法があったらいいのに」


そのときのミーにはその言葉の意味が分からなかったし、
そういう意味で言ったわけじゃないんだと思うけど、ただミーも思う
みんながみんな幸せになれる方法なんてありはしないんだ
彼女が悲しく笑って言った、その言葉の意味が…
今、違った意味でようやく分かった気がする


「なぁ、あいつ知らね?」

「あいつじゃ分かりませんー。誰ですかぁ?」


わざととぼけた振りをしてみる
大体、この堕王子がミーに聞く「あいつ」の正体なんて、
それこそ彼女しか居ないのにわざと知らない振り
彼女のことを「あいつ」だなんて呼ぶの先輩ぐらいだ
それがなんだか先輩だけの彼女の呼び方みたいで正直ムカつく


「あいつと今日遊ぶ約束してんだよ」

「夢の中ででもしてたんじゃないんですか?」

「ちげーよ、……嗚呼、てめぇマジで殺してぇ」

「うわー最低ですね。だから約束すっぽかされるんですよ」


ねぇ、先輩。知ってますか?
ミー達が思う彼女が、ミーの想いも、先輩の想いも、
全部全部知ってるってこと
彼女は知ってて知らない振りするんですよ
先輩が好きだって彼女に伝えたときに、笑ってありがとうってかわしてましたよね
先輩はあとで、「あいつって天然?」と本気で悩んでましたけど、
でも全部嘘だってミーには分かります
それが幻術使いのミーだからか、
それともミーが彼女を見すぎだからかは分からないですけど、
きっと、彼女はミーの想いも先輩の想いもお見通しなんですよ

なんでかって?

そんなこと知ってるでしょ?
優しい人だからですよ
優しい彼女だから…だから、どちらか一方を取って、
あと1人を見捨てるなんてできないんです。
2人だけ幸せになんてなれない人なんですよ
でもね
ミーは知ってるんですよ
本当は彼女が誰を好きかなんて

彼女のことを入隊したときからずっと見てきたから分かります
悔しいけど、先輩を見つめる表情は、ミーを見つめるものとは全く違って…
でもミーはそれでも彼女にどこかに行って欲しくなくて、
離れられないで居るんです

彼女は、本当に優しくて残酷なミーの何者にも代えがたい大切なひと
でもそんな彼女から離れられないミーはもっと酷い
その優しさに付け込むミーは最低って言われても仕方ないです

彼女の幸せを願いつつ、
それでもミーと幸せになって欲しいだなんて矛盾してますよね
でも本当なんです
彼女と先輩の応援ができないミーはある意味師匠より性質が悪い人間なんです

これ聞いたら先輩は怒りますよね

だから言えないんです

優しい振りなら得意なのに、
実際やってることは悪魔以上かもしれません


「何やってんの?2人とも」


先輩と殺し合いという名の喧嘩をしていると彼女がミー達の前に現れる
この人を見ると、傍に居たくなる。
離れられなくなる。だからそれが一番彼女の為になってないのは分かってる
それでも、どうしても彼女の傍を離れられないミーの心を知れば、貴女はどうしますか?


「2人ともまた喧嘩?」

「「殺し合い」」


彼女は諦めたかのようにため息を吐くとミーと先輩の手を取り引っ張っる


「はい、ここ座って?手当てするから」

「これぐらい、どうもないですよー」

「そうだって、いつもに比べたら全然平気」


「いいからっ、2人が怪我したら心配なの」


あまりに真剣に言うからミーたちはなにも言えなくなる
彼女は暗殺部隊に所属しながら、隊員達の怪我を嫌う
その割りに自分のことを省みないから心配になる
そんなところを気にしてたら、気づいたらミーは貴女から目が離せない

堕王子もきっとそんなところだろう

もしミーが先輩より先に貴女に出逢ってたら何か変わってましたか?
こんな関係を壊すことができましたか?
ifの話だなんて不毛なだけだけど、考えられずに居られない

いつも切羽詰ってて、必死で、精一杯


あいにく余裕なんてものは持ち合わせておりません



貴女の手を取るのは自分だと思ってた
そうであってほしいと思ってた


「痛い?大丈夫?」


そう問いかける彼女に…
その言葉の真意を勘違いをしてしまいそうになる自分を抑えて
周りを振り回しながら、今日も彼女に恋をする




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企画サイト「elysium」さまに提出






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