愛は惜しみなく与う
短編





視界が揺らぎ、意識も薄れつつある中、私は思った。

私は「また」死ぬんだろうか?

死ぬのは怖くない
この世界でも、前の世界でもそれなりの覚悟をして生きてきた
剣に生きて剣に死ぬ
それが剣士としての私の誇り、何があっても譲れないただひとつの覚悟
それに今までの人生を後悔したことはない
前の世では、新選組の一員として最期の最後まで戦えた

あたたかさやぬくもりをくれた近藤さん
そんなこと気にしてないというように見せておいて、誰よりも人を思いやる土方さん
意地悪ばかり言うけれど、
でも、それでもしっかりと私を見てくれた。
羅刹としてではなく1人の人間として見てくれた沖田さん

みんなみんな大切な人だった

その人たちとともに剣を振り、返り血を浴び、そして生き抜けていけたこと
私の誇りであり、それが私の道しるべだった
あなたたちが居たから今の私はここに在れる

ねぇ、私

この世で死んだら、今度こそそちらに逝けるのかな?
また新選組のみんなと笑ってお茶したり、悪ふざけしあったり
そんなことがまたできるのかな?

嗚呼、私は死ぬのかな?


「――、おいっ起きろ」



微かに、微かにではあるけど声が聞こえる
誰?
ねぇ、なんでだろう。
なんでこの優しくて温かみのある声を聞くと切なくなるんだろう。涙が溢れそうになるんだろう。


「頼む、生きてくれ」



「…ぎん…ときっ」


重い瞼を上げると、そこには泣きそうに、でも嬉しそうにする銀時が居て
何故か私は泣きたくて堪らなくなる

近藤さん、土方さん、沖田さん、みんな…
私はまだ死ねないかもしれません
この人を置いては死ねない
私が死ぬことで悲しんでくれる人がこの世にもできました。
私を愛してると言ってくれる人がこの世にもできました。
なにより掛け替えのない人がこの世にもできました。


「ばか野郎、俺ひとり置いて、勝手に死のうとすんな。お前が死ぬときは俺も一緒だ。一緒に生きるか、一緒に死ぬかだ」

「…ごめん」

「今更、俺がお前なしで生きていけるわけねぇだろ、生きろよ。生きて、そんで愛してるって言ってくれよ。」

「…ははっ」

「笑うな」

私の胸に頭をくっつけて私のことを優しく抱きとめる彼に
どれだけ胸が熱くなったか、
彼は知っているんだろうか
私は溢れる涙を隠すように彼の肩に顔を埋めた
周りの音に耳を立てると他のみんなも私のことを不安げに大丈夫か?と囁いていて、
私はこんなにも幸せ者だったんだなぁとふと思う


「…ねぇ、銀時、私は…好きだったでも愛してたでもなく。私は銀時のことを愛してるよ」

「…ばか、もう俺から離れんな」


周りの視線も気になったけど、今はそれどころではなくて
ただただ、彼が愛しくてたまらなかった
私を拾って育ててくれた松陽先生
私に憎まれ口をたたきつつも優しくしてくれる晋助
母親代わりかと思いたくなるほどの温かさをくれる小太郎
そしてなにより私に優しさも強さも温かさも喜びも…
全部全部を無償でくれる銀時

貴方たちとこれからともに在れるなら私は何でもできる
これから私は私として、
剣に生き、剣に死ぬ運命を辿るだろう

前の世のことを忘れることはないだろうけれど
私はこの世で愛しく思う人たちのを守るために剣を振るいたい


拝啓

新選組の皆さん
そちらではどうお過ごしですか?
私には大切な人たちができました

大食らいがたまに傷なとても可愛い女の子の神楽ちゃん
純粋な魂を持った、何事にもまっすぐな新八くん
我が家の一員でもある規格外と思うほど大きな定春
もうひとり、我が家には欠かせない人物が居ます。

私の傍で笑ってくれます。私を笑わせようとしてくれます。
私の幸せを願ってくれます。本当に、やさしいひとです。
まだそちらにはいけませんが、
いつかきっと貴方たちにも会いに行きます

それでは、またいつか…



「ねぇ、銀時」

「ん?」

「昔さ、銀時に私が死ぬのが怖くないって聞いたよね?」

「…ああ」

「そのとき死ねない理由があるから死なないって言ったけど、あれってどんな理由なのかなぁって思って」

「あー…えっと…それはだなぁ」



お前にしてやりたいことがたくさんありすぎるんだよ
笑わせてやりたい、幸せにしてやりたい
泣いたときは傍にいてやりたい、守ってやりたい

そして最後は俺の希望だが、

傍で愛したい。隣に居たい
お前の隣を誰にも譲りたくねぇから俺は生きるんだよ



自分の頭をぐしゃぐしゃ掻きながら、
私を横目で見つめる銀時に私はぎゅっと抱きつく
彼に愛しさを感じながら幸せな時間は流れる

どんなに危ないときでも、生きてこその私達であると思うから
必ず生きて生きて生き抜こう
そう固く思いを誓った、日々に感謝を




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混合夢企画サイト「殺 」さまへ提出






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