愛は惜しみなく与う
短編



泣いていいよ




「泣いていいから、だから我慢せずに泣け」


その一言で、彼女の涙腺は一気に崩壊した。
溢れる涙は止まらず、止め処なく流れる

そんな涙を俺は右手で拭う
この涙すら愛しいと思う俺は相当な馬鹿だろう

なんで世界はうまく回ることができないのだろうか?

自分の好きな相手が自分を好く
それだけのことなのに、それが難しい
俺もこいつもただ好きだった
俺はこいつを…こいつは誰かを

好きな相手が他の誰かを好きで…という話はよく見聞きする
そんなのは世間ではよくある話
だがそれを実際に行うのはなかなか辛いもんだ

こいつはただ幸せになりたかっただけだった
だが世の中ってのはうまくいかない
こいつの好きな奴は他の奴が好きで、
つい最近その野郎には彼女できた。
もちろん、今俺の傍で泣いているこいつじゃない

こいつはその野郎が好きだった
それは俺も知ってた。
だが何もしなかった。
好きな奴が幸せになってくれんならそれがいいと思ったからだ。
でも今はどうだ?
こいつは幸せだって言えんのか?
こんなに涙を流して、傷ついて…
こんなものは幸せなんて言わない

俺に何ができる?
そう考えたとき、すぐに思いついたことがひとつ
すっと息を吸い込んで、
二酸化炭素を吐き出すと
なんだか今まで抱えてたもんが一気に楽になった気がした


「泣きたいなら泣けばいい、我慢する必要なんてねぇよ」

「っ…ふっ…ぎん、とき」

「どうした?」

「私…どこを間違えたかな…幸せになりたかった。好きだった」

「知ってる。お前がどんだけそいつを好きだったか…」


「なぁ、こんなときに言うなんて卑怯かもしれねぇ
だけど、だけど俺に言わせてくれ、俺は、お前が好きだ。
何よりも、誰よりも、他の誰かじゃなく、ただお前だけが好きだ」


俺の言葉に目をかっ開いて吃驚するこいつの姿が目に入る
もうこいつの目からは涙は流れていない


「涙、止まったな」


そうやって俺は笑う
そうすればこいつは顔を朱色に染めながら綺麗に微笑む
それが嬉しくて、俺はこいつの頭をくしゃくしゃと撫でると
セットが崩れるといいつつも満更でもなさそうなので続けながら口を開く


「俺にしとけ、俺ならお前を泣かせない」

「…でも、私はまだ諦めきれないし、そんなの私、ずるすぎる」

「俺がいいって言ってんだ。俺は一途だって昔言わなかったか?
俺はどんなになってもお前が好きだ。
もし、お前がそれに納得できてねぇなら、
いっそのこと、間違ったまま生きちまえ
俺はお前が笑顔で居られるのならなんだってする。
たとえ今は俺を見れなくても、いつかきっと俺だけしか見ていられねぇようになる」

「自分勝手っ…」

「それが俺だろ?我慢しすぎた。これからは我慢しねぇ
泣きたいときは泣いていい、我慢しなくていい
ただできるだけ俺の傍で笑ったり、泣いたり、怒ったり、時には八つ当たりでもいい
どんなときも、俺の傍で感情爆発させてろ」

「っ馬鹿…ありがとう」


いつから好きだったか?
そんなもんは分からない

どこが好きか?
あいつの見せる表情、そして仕草すべて

何で好きなのか?
そんなもん理屈でいえるもんなら苦労しない
気づいたら、もうそいつしか見えない
そいつしか愛せないそれが恋ってもんだろ?

彼女が好き?
好きじゃ収まりきらねぇから困るんだ

彼女に送る言葉を―

今も昔もこれからもどんなときでもどんなになっても変わらないことがある

ただひとつだけ

俺はお前を欲してる、だからいい加減俺を求めろ


送る言葉は次期に誓いの言葉となって未来へと繋がる


泣きたいとき、苦しいとき
独りで泣くのはあまりにも酷だから、俺が傍に居る
嬉しいとき、楽しいとき
独りで喜ぶのは寂しいから、だから俺が傍に居る

そうして、これからも一緒に生きていこう

それが俺からお前への誓いの言葉





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夢小説企画サイト「冷たい君に至福の時をさま」に提出






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