愛は惜しみなく与う
短編




「はぁ…少々仕事をし過ぎたか…?」


張った肩を抑えながら、帰宅途中の道を静かに歩く
辺りはもう冬景色
ちらちらと雪が舞い、しんしんと降り積もる

こんな冬は人肌が恋しくなるという噂を戯言だと吐き捨てた時期もあった
だが、実際に大切な人間ができるとこんなにも独りの時間が寂しく感じるなんて思ってなかった
たかが仕事の時間離れるぐれぇだ
それだけだ
だがそれだけと知りつつも抑えられねぇ感情が俺の中を渦巻く
そう思うだけで俺の足は速まる

あいつは今何をしているんだろうか?とか
あいつは今何を考えているんだろう?とか
知りたいこと、心配なこと、アイツと直接会って話したいことだらけだ

これじゃあ折角結婚までしたのに俺は全く成長しねぇな 

そんな自分に呆れつつも、その足は確かに自宅へと一直線に歩みを進める


「今帰った」


玄関を開け、まずはじめに目に入る光景というのは結婚後も結婚前も変わらずアイツのエプロン姿
そんなものは今までの同棲で見慣れてた筈だが、それも結婚してからまた違うものを見るような感覚に襲われる

今、こいつを独占できんのは俺だけだ
もう心配で堪らない日々を過ごす必要はねぇ
こいつは俺だけのもので、俺はこいつだけのもの

料理作りに励む彼女がちらりと俺を視界に入れるとにっこり微笑み
ただ一言

「おかえりなさい、小十郎さん」

今まで呼ばれたことの無い、小十郎という名前
こいつに呼ばれるだけでそれだけでこの名前が特別なもののように感じる

思わず何も考えずにこいつを抱きしめた


「ど、どうしたんですか?ていうか体っ、体冷たいです!早くストーブに当たってきてください」

「無理だ、お前とこうしてるだけで温かくなる」

「ですけど、私は小十郎さんが心配で…」


なんつー可愛らしいことを言うんだ。この女は…

少しだけ頬を紅に染め、
心配そうに俺を見つめる彼女の唇に俺はそっと触れるだけのキスをした


「お前からはもう目が離せないな」

「え?なんでです?」

「お前があまりにも無防備すぎるからだ
頼むから、これからも俺の目の届く範囲に居てくれよ?」


「はいっ、私は小十郎さんから離れませんし、離れられません。
私の心は常に貴方に預けます。愛しくて堪らない私の旦那さまの小十郎さんに」


「馬鹿か…まったくお前は」


あまりに無防備すぎる妻を守れるのは俺だけだろう
何があっても離すものか
何があっても傷つけるものか

もう、こんな感情を抱ける人間など他には居ないだろう

愛してる

それだけでは収まりきらないほどのこれ等の感情を、これからどうやってこいつに教えていこうか?


覚悟してろ?


そう心の中で呟きながら
またひとつ、彼女にキスを落とす



【抑えきれぬこの感情をあなたへ】




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片倉夫妻を書かせてもらいました。
切羽詰った片倉さんも素敵で、お互いにお互いを愛し合えばいいと思います。







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