屑星どもに告ぐ

「だから、さ」
「おう」
「元親が重いんじゃなくて早紀が軽かったんだって」
「…ん」

恋愛相談中。
マックなう、と片手間にツイートすれば真面目に聞けよとどやされた。
入学から一ヶ月で作ったという彼女も一年もすれば冷められたようで。

絵文字や顔文字の類は一切なく、最低限に纏められた3行の三行半が物悲しい。
帰りの挨拶が終わったと同時に転送されてきたそれを読み、涙目の元親に手を引かれて駅前のファストフード店へと連れ られてきて、今。
ずびずびと鼻を啜る元親にティッシュを手渡した。目尻は赤くまだ涙を湛えている。

「何も早紀だけが女じゃないだろ?」
「そう簡単に捕まりゃ苦労しねぇだろ…」
「彼女は捕まえるもんじゃない」
「ッ…」

自分の言葉が青臭くて反吐が出る。
なんのことはない。ただ飽きて捨てられただけなのに。
目の前の彼をここまで悲しませられる元彼女に少しだけ妬いた。
胸の奥がちりちりと焦げ臭い。

「さっさと忘れろよ。な?」

俺にしとけよなんて言えるはずもなく、当たり障りのない慰めを投げつける事しか出来なかった。
赤い鼻に涙目でストローをがじがじと齧る彼はただ純粋で、無垢で、触れてはいけない気がした。

「…そろそろ出るか」
「ん。あ、これ」
「いらねえって。話聞いてもらった礼だ」

手に握った硬貨を押し返される。
入る時に元親が2人分注文してさっさと代金を払ってしまったのだがどうやら奢ってくれるらしい。

「んなたかだか数百円で…」
「…今度飯奢る」
「馬鹿、冗談だっての。いつでも話聞いちゃるよ」

勿論、タダでな。と笑いかけた。
弱弱しくはあったが にま、と笑い返される。

日は沈み、西の空に橙を残している。
都会の明かりが邪魔をしていたが、星の姿は見ることができた。
ぽつりぽつりと輝く星はきっと見えて二等星くらいまでだろう。

そんな少ない数の星でもきれいだ、と呟く元親がふいに俺を見た。

「由良、」
「何だよ」
「お前がダチで良かった」

何を言い出すんだこいつは。
顔が熱い。
朱に染まる頬は夕日で誤魔化しきれているだろうか。
視線を合わせることが出来ず、空を仰いだ。

「ッ…恥ずかしくねぇかその台詞」
「そ、そこは感激する所だろうが!」
「さーてなぁ」
「由良は冷てぇなあ」
「せめてクールと言ってくっ…と」

そのまま星を見ていたら案の定溝に蹴躓いた。
左手首を強く握られて転倒を免れる。

「お、おい大丈夫かよ」
「大丈夫。助かったわ」
「ったく…前見て歩けよ」

かたく握られた手は離れない。

「元親、あの、手」
「あぁ?…よし!帰っか!」

不自然だった握りをちゃんと直した上で歩き出す元親。
「野郎の手握って楽しいか?」
「握りたい気分なんだよ!ほっとけ!」
「そう荒むなよ」

いっぱいいっぱいに自嘲をこめて吐いた言葉も握られた手の前には無力だった。
俺の手よりも少し体温の低い大きな手は節ばっていてほんのりと温かい。

「わかったぞ元親」
「ほぉ、言ってみ」
「甘えたい年頃なんだな?」

沈黙。

「あれ、外した?」
「お前は本ッ当に…」
「なんだよ」
「なんでもねぇよ!汲め!」
「無茶を仰る元親さん」
「うっせ!」

軽口の応酬が宵の空に解けていく。
握った手の鼓動は伝わっているのだろうか。
ああ指先から破裂してしまいそうだ。

俺には見えない屑星よ


頼むから


この鼓動を


とめて




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