制圧前夜エマージェンシー
知将奇憚と主同じ
詳しくはむこう参照
元親が俺の部屋に来てから3日になる。
初めて見た時にぶっ壊されそうになったテレビにもようやく馴れたようだ。
たまにリモコンでつけると肩がひくりとなるのがかわいい。
いや、かわいいって。
見れば見るほど「かわいい」からほど遠い見た目だよなこいつ。
じぃいと背中を凝視していると元親が顔を上げた。
薄紫の色素の薄い右眼と視線がかち合う。
「…何だ?」
「いや、なんでもない」
来た時から元親はずっと眼帯をつけている。
風呂ん時にも外さないから放っておいた。いずれ話してくれるだろ。
他にも聞きたいことが多すぎて何から聞いたらいいかわかんねぇんだよな。
今日も順調に一日を終えて家計簿をつけ終わると、頭をぐしぐしと拭きながら元親が風呂から上がってきた。
寝る前に何を言っても上着を脱ぐので最初からスエット下だけ渡すことにした訳だが。風邪引かないのかこいつ。
「海の男は風邪なんざひかねぇよ!」とか言いそうだ。
…にしてもこいつ凄ぇ体してるよな…板チョコみたいにバッキバキに割れた腹に無数の切り傷。
わき腹にはでかい傷三本も入ってるし、否が応でも目の前のこいつが戦国武将だったのを実感させる。
頭を拭き終わったらしい元親がひょこひょことこっちにやってきた。
「なあ、この時代の家主は椅子で寝るのか?」
唐突に聞かれた。
この部屋にベッドはひとつしかないので、心優しい俺がベッドを譲ったのだ。偉い。
代わりに俺がソファに寝てるんだが気に入らないようだ。
「…うん」
嘘をついた。
「嘘こけ」
ばれた。
「もともとあれはお前の寝所なんだろ?なんで俺に寝せるんだよ」
「戦国武将を椅子に寝かせる訳にもいかんだろ。不敬罪とかで俺殺されちゃう」
「誰にだよ」
「偉い人に」
「国主にそれ言うかぁ?」
からからと笑う元親。
このままうやむやに流れてくれないかなあと思ってたが駄目だったようだ。くそう。
「元親はあれには寝れないだろ…」
「…まあな」
初日の夜が明けて朝にベッドの真ん中に大の字でいびきをかいて寝ている元親を見て確信した。
こいつはソファーに寝せられん。落ちる。
「…〜〜ッだぁぁあああいいからお前はべっ、べっど?で寝りゃぁいいんだよ!」
「いやぁ…だってさ」
「ああぁぁぁあ面倒くせぇなお前ほら来い!」
痺れを切らした元親に腕を引かれてバランスを崩して元親の胸へと倒れこんだ。
こいつほかほかしてる。
「なあ、手、離せよ」
「駄目だ。お前またそふぁーで寝るだろ」
「そりゃなあ」
「だろ?駄目だ」
「…なあ元親。半裸の武将にもたれかかってんのは流石にアレだろうよ。ほら、離せ。」
「だってよぉ…」
頑固だなこいつ。変なとこで生真面目っつーか。
口を尖らせて反論する元親からそろそろ離れたかったので、渋々だが折れることにした。
「…あー、わかった、わかった今日は俺がベッドで寝るから」
「本当か!よし来い!歯ぁ磨いたよな!」
「え、あ、ちょ待って」
ぐいぐいと引っ張られてそのままベッドに引きずり込まれた。
えっまじか。一緒に寝るのか。暑くないかいや最近めっきり寒くなったけど。
「えっおい、元親さん?」
「こら、大人しく寝ろよ。じゃあまた明日な」
聞いてねぇこいつ。しかも腕とか当たってるんだけど。
肩のあたりに乗せられた手からどう逃げるかと押し黙って考えていたらすぴすぴと寝息が聞こえだした。
「…はえーよ…」
元親が寝静まったところで冷静にこいつの状況を整理した。
なんだかんだでこっちで頼れるのは俺だけだもんな。
寂しかったのかな、なんて自己完結をしてみた。
寂しいなら寂しいと早く言ってくれりゃいいのにな。言えないよなあ…
しばらくは添い寝してやっても良いかという結論に達した。
衆道じゃないようだし、襲われなければ別に大丈夫だろ。
と、まどろんで来たところに太ももに鈍痛。おっと顔にも。
なんだこれ地味に痛い。
くっついていた瞼を開けた。元親が盛大に布団を蹴っ飛ばしていた。
忘れてたこいつ寝相悪いんだった。
あれよあれよという間にベッドから転落して背中から着地。痛い。
もうちょっとで寝られたのに、とか、引っ張ってまで添い寝希望したの誰だよ、とか。
ぐるぐる文句は浮かんできたが、元親が無意識下でまた手繰り寄せようとしている掛け布団を剥ぎ取って無言で速やかにソファーへと向かった。
翌朝。
やたらめったら機嫌の悪い俺になにがなんだかわからないがとりあえず必死に謝ってくる元親。
半べそかく勢いで謝ってきたので許してやろうと思う。
「そういやなんでまたソファで寝てたんだ?」
…前言撤回。
こいつ今夜から床。
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