3

ちょうど冷蔵庫にふた玉入っていたうどんを茹で、食べながら今後について話した。
互いの自己紹介。
戦国について。
現世について。
この辺は一応タイムパラドックスを考えてぼかしめに伝えといた。
…パラドックス。過去の人がなんらかの作為により未来に起こる事柄を知ってしまい、回避することで未来との辻褄が合わなくなること。

何よりこれが一番怖かった。偶然とはいえ俺が彼らの未来を壊してしまうことにもなりかねない。
話を聞けばこの世界の過去とはかなり違っていて、時間軸が縦にも横にもずれている。
とはいえ何が起こるかは全くわからないのも事実。
慎重に、丁寧に恐る恐る言葉を選んで喋った。
片倉さんは時折疑問を口にしつつ、静かに俺の話を聴いていた。


…そして、こっちに飛んできた時について。
今縋れる鍵はそこしかない。少しでも手がかり足がかりが欲しかった。

正直、突然知らない世界に飛ばされて、知らないものに囲まれて、しかも戻れる保証はないときた。
片倉さんにどれだけのストレスが掛かっているかは計り知れない。
会ってまだ2時間も経ってないが、ほんの少しでも力になりたい。
祈るような思いで問いかけた。


「…覚えてねぇな」

「ですよねー!」

知ってた。そう簡単に解決しないって分かってた。
くそっ視界が滲みやがる。

「何だそんな顔して…覚えてねぇっつうかな」

「お?」

「真っ暗で何も分からねぇんだ。靄がかかっちまったみてぇにな」

「…そうですか…手がかり無し、ですね」

「…すまねぇな」


突然の謝罪に顔を上げた。
薄い唇を真一文字に結び、眉間の皺をより深く刻んでいる。

「っえ、な、なんで片倉さんが謝るんですか」

「自分が餓鬼に戻っちまったみてぇだ。居候の身で何も出来ねぇなんてな」

はは、と自嘲気味に笑う片倉さん。
ぱらぱらと欠片になって飛んでいきそうなほどに、脆く儚く見えた。

「じゃあ、炊事洗濯は任せました」

「…あ?」

きょとんとされた。
こいつ何言ってんだみたいな顔で見るな。


「だから、炊事洗濯は片倉さんの当番で。一緒に暮らすんだからそれぐらいはしてください」

「いや、お前」

「嫌とは言わせませんよ」

「誰が言うか」


呆れた顔をされている。失礼な。

「…未来人ってのは暢気なもんだな」

「楽天的と言ってください」

「…」

「考えてみてくださいよ。原因も解決策もない今、あなたが出来る事って言ったってこっちに慣れるしかないでしょうに」

未来。
もといた時代のものではないかもしれない未来。
自分ひとりじゃどうしようもない未来をどうにかしようと言う方が無理な話ならばどうにもしなければいい。


「どうにもならないなら、楽しめばいいじゃないですか。この未来を」

「…お前は本当に…」

「お前じゃないですってば」

「はは、悪かったな」

「ったく…」

「じゃあ、頼るぞ」

「え?」

差し出された手。おずおずと握ってみれば強く握り返される。
古傷だらけの手は俺のそれよりもずっと大きく、武骨で逞しかった。


「世話になる。よろしくな。隆人」

「っこ、こちらこそ!」



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