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…起きた。
時計を見れば一時間は経過していて。依然押入れの精(仮)はうつ伏せで気を失っている。
とりあえず片付けなんぞしている場合ではないなと彼を横に寄せて立ち上がった。
毛布とかかけときゃいいかな。
吹っ飛んだ襖を横に寄せて押入れの中を見た。なにも変化はない。
…このまま目を覚まさないとかないよな?
あとで襖戻しとこう。
と、押入れの精(仮)に目を向けたところでぱちりと目を開けた。
「…ここは…」
「ひ」
「…お前、何者だ。何でここに」
その声を遮って、力の限り絶叫した。
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土下座なう。
目を覚ました彼は戦国武将で片倉さんと言うらしい。竜の右目?らしい。
いくつか話をしていくうちに眉間の皺がどんどん深くなっていく。
正直これ以上睨まれるのも勘弁願いたいのでとりあえずすべてを謝っておくことにしたのだ。怖いし。
「っと言う訳で!すみませんでしたァ!」
「...お前は何も悪くねぇんじゃないか?」
「まあそうなんすけど...なんか誰かが謝んねーと話進まんかなって思いまして」
「...まあいい」
それから、この世のことについて少しだけ話した。
刀持つ人はいないこと。まずい事したら捕まる事。片倉さんが捕まるとまずい事。
「片倉さんはうちで保護します」
「...保護?」
「保護です。帰る方法が見当たらない以上、うちに居てもらうしか、」
「ちょ、お、おい待て。お前、俺を匿うのか?」
「お前じゃなくて隆人です」
「ッ隆人!」
「...匿うもなにも。帰れるまで居てくださいよ。どこ行くんですか」
正直、相当麻痺ってたんだと思う。
見ず知らずの自称戦国武将をこんなホイホイ住まわすなんて。
ただ、この人を外に追い出したりすれば俺は絶対後悔する。そう思った。
自分には正直に行きたいんだ。
するりと二の句を継いだ。
「うちで、暮らしませんか」
きょとんとこちらを見る片倉さん。
目が合ったまま、ひとつふたつと瞬きをした。
「...隆人」
「なんですか?」
「...いや、...ははっ」
突然笑い出した片倉さん。
俺ぽかん。なんだこの立場逆転。
はっはっはと大笑いをしている。しかもちょっと仰け反ってる。
「は、はは、お前、そのうちお人よしで死んじまうぞ」
「あー、そん時はそん時じゃないですか?」
笑い始めよりは控えめになったものの依然くつくつと噛み殺しきれていない笑い声をあげている。
「ああ、笑った」
「何がそんなに可笑しいんですか...」
「...お前の顔、がな」
「えっ顔?なんかついてます?」
「馬鹿、そういうんじゃねぇ」
一応顔を触ってみたが、だから違ぇよ と否定された。納得行かん。
兎にも角にも。片倉さんには素晴らしく冴えた俺からの妥協案を提示する。
「…とりあえず、昼飯食いませんか?」
戦国時代は昼飯がなかったと彼にばっさり斬られるのは、ここから僅か5秒後の事だった。
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