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あのあと風呂から上がった片倉さんの髪をドライヤーで乾かした後にちゃっちゃか入浴を済ませ居間へ。
どこで寝るんだと問われ寝室へ案内。

シングルベッドひとつしかない寝室を見るやいなや椅子で寝るとぬかした片倉さんをなんとか宥めてベッドに押し込んだ。
両親のぶんのベッドはむこうに転勤が決まった際に処分した。
こんなことがあるなら残しとけばよかったかなと思ったがまあ仕方ないだろうよ。

一緒に寝ませんかと提案してみた。
「っあ、いや…俺は椅子に」
まんざらでもなさそうだったので押した
「片倉さんがソファに寝たら足はみ出ますよ」
「まぁな…」
「ほらほら寝ましょうよ」

正直、布団を出すのが面倒だったのもあるんだけど。
この広い家に俺以外の人がいるのが妙に嬉しくて。
ちょーっとだけ甘えさせてもらおうかなぁなんて。
でもあれだ。やっぱ狭い。
明日には布団出そう。



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ぱちり、と目が冴えてしまった。
暗闇に慣れた目で時計を見れば真夜中の三時。
隣人を起こさないようにそっと布団を抜けた。

冷蔵庫から2lボトルの水を取り出し直接喉に流し込む。
喉の乾きが落ち着いたところでへたりと床に腰を下ろした。

「...は、これ、二人暮らしだ」
「今更何言ってんだ」

思わぬツッコミが飛んできた方を見れば片倉さんが立っていた。
眉間の皺が昼間よりも深い。

「あ、おはようございます」
「こんな夜中にどうした」
「あー、いや、水飲もうかと」

ちゃぽ、と手元のボトルを軽く振れば、俺にも寄越せ、と手を差し出される。
まだ慣れないようだが、慣れないにしては上手に口づけて中身を減らしていった。

こくり、こくりと上下する喉仏。幾分かは緩んだ眉間の皺に謎の安堵を覚える。

「キャップ、じゃないや蓋、これです」
「...回すんだったか」
「そうです。こうやって、」
片倉さんの手元のボトルにキャップを締めようと手を伸ばせば、上から覆うように手を被せられた。

「っあ、え、」
「貸してみろ、自分でやってみてぇ」
「あ、...ど、うぞ」

重なる手の堅さと大きさに驚いた。
節ばった手は少し冷たくて、人差し指と薬指で器用に俺の手からキャップを奪う。

顔を上げれば、期待や好奇心を反射して切れ長の目が輝いている錯覚を覚えた。
冷蔵庫の橙の光に照らされた横顔は精悍で、頬に走る傷も男らしさの象徴だった。
どれだけ片倉さんを見つめていたのだろうか。
キャップを締めるのに満足したらしい片倉さんがこちらを見た。
かちあう視線に耐えかねて、数瞬で逸らす。頬がひどく熱かった。

「お、おい」
「...なんですか」
「顔赤ぇぞ」

ひた、とあの大きな手が頬に触れる。赤く染まる頬に心地良い冷たさだった。

「なんでもないです」
「...風邪か。熱、はねぇな」
優しい手つきで額も触られ、頭をくしゃりとひと撫でして離れる掌。
「ほら、寝るぞ。冷えちまう」
そう言うと、片倉さんは水のボトルを俺に返して立ち上がった。

ひたひたと音のない歩幅は俺よりもずっと広い。
呆けたように開きっぱなしだった冷蔵庫を閉め、小走りで片倉さんに続く廊下はどこか温かい気がした。

布団出さなくていいんじゃないかな…なんて。

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