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...なんだこれは。
緑の人に脇差?を突きつけられている。
「答えよ。此処は何処だ。我は何故此処にいる。貴様は何者だ」
俺より小柄なその人は俺の上に馬乗りになったまま口を開く。
肌がちりちりと痛む。なんだこれは。声が出ない。
「答えられぬか。黙秘は拒否と見なす」
「はっはははい言います言います!」
殺されたらたまったもんじゃない。震える体を叱責して言葉を絞り出した。
「...ここは俺の部屋で光ったらあなたが居ました俺は小此木長門19歳大学生!」
一息に言った。さあはやくどいてくれ。
「だいがく?」
「...えっ、大学、生です」
「ここは、...いや、今は、」
強く肩を掴まれる。
「...っは、はい」
「今は、何の時代だ」
「...平成です」
「戦国の世から、どれだけ経つ」
「よ、四百年ぐらいでしょうか」
鋭い双眸が見開かれる。
「戯言をほざくでないわ。 斬られたいか」
「...外、見たらどうですか」
窓を指させば緑の人もそれに倣う。夕焼けに染まる街が目前に広がっていた。
「...は」
肩を掴む手が緩む。
「...は、はは、馬鹿な...」
からんと脇差が落ちる。
「あ、の」
「......万策尽きたわ。何処ぞの神の悪戯やら」
呆然と俺の上で力なくへたりこんだその人は、掴まなければふわりと消えてしまいそうで。
脇差を取り落としたその手を思わず掴んだ。
「っあ、の、 お名前を教えて頂けませんか」
「...知ってどうする」
「っあ、あなたは俺が保護します!」
あれだけ鋭かった眼は虚ろになり、返す言葉は覇気がない。
「お、俺にはあなたを元いたところに帰せません。でも、帰るまでの衣食住は保証します」
力なく垂れた頭がゆっくりとこちらを向いた。
「ここに、居てください。お願いします」
「...我を置いて、何の得になる」
「得とかの話じゃない!...です」
「ならば、うち捨てよ」
「そんな事は出来ません」
「しかし、」
「俺は、っあ、あんたに居てもらいたいんだ」
また、ぱちりと目が見開かれた。
「...お前」
ぽかんとした顔に、ふと冷静になった。やべ、俺なに口走ってんだよ顔直視出来ねぇ。
「...あ、いや違います告白とかじゃなくてあのただあんたが消えそうで!ってあぁだからそっちじゃ...!!」
「おい、」
「っはいすんません!」
「...毛利、元就だ」
「っ...、え?」
「元就だ。二度も言わせるでない」
顔を上げると目が合った。
もう虚ろな目はしていない。
「っあ、の」
「世話になるぞ。長門よ」
初めてまともに顔を見た。この人凄い美人だ。
「...うちにいて、くれるんですか」
「お前が居ろと、言ったのだろう」
じわじわと言葉が染み渡って行く。
「っじゃあ、あの」
「よろしく、な」
晴れやかな表情で微笑まれる。
顔赤くなってねぇかな俺。
「っは、はい!こちらこそ!」
同居、始めました。
「元就さん、お腹空いてないですか?晩飯にしましょう」
「ああ」
「...あの、上からどいて頂けると、嬉しいです」
「...すまぬ」
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