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「これが冷蔵庫です。冷たいままでものをしまっておけます」

「ほう」

「こっちは電子レンジ。ものをあっためます」

「あっためんならこんろで十分だろう」

「ああ、こっちの方が簡単なんですよ。試しに何かあっためてみましょうか」

きらきらと期待の眼差しで俺を見る片倉さんに自然と口が緩む。
只今、現代技術体感ツアーイン俺ん家。水あっためてるよ。
一緒に生活してもらう上で最低限出来て欲しい事や教えておきたいことをひとつひとつ説明して周ってるんだが、結構時間がかかる。
何もしないでゴロ寝でだらだら過ごしてもらってても一向に構わないんだが、片倉さんの性分には全く合わないだろうなーとか。
さっきちらっと仕えてる主についての話聞いたが、滔々と語る片倉さんの眼が完全に保護者の眼だった。
「何かしてないと落ち着かない」を地で行くストイックな人なんだろうなと思う。
俺がだらけ過ぎない程度には働いてもらおう。料理も出来るみたいだし。

という訳で電子レンジなう。
「なうとは何だ?」

「ああ、こっちの話です。ほらもうすぐ終わりますよ」


チンと鳴った電子音に肩をぴくりと震わせたのは見逃さなかった。
湯気を立てる湯呑みを手渡す。

「どうぞ。ってただの白湯ですが」

「ちゃんとあったけぇな…」

「でしょ?」

どうせならお茶にしとけばよかったかな。
まあそれはいいとして。

「あ、それがキッチンタイマー。時間を計ります」

「時計とは違うのか」

「短い時間を計ります。料理によく使います。あと風呂沸かしたりとか」

「ほぉ…そりゃ便利なもんだな」

「台所はこんなもんですかね。次風呂場行きましょう」

返事がない。
振り返ると、真剣な表情でキッチンタイマーをいじる片倉さんが。
頬の傷に眉間の皺に鋭い眼光。まじまじと横顔を見るとヤのつく鉄砲玉さんにしか見えない。
手に持っている黄緑の葡萄型のタイマーがやたら小さく見えるのはなんだろう。

「…あの」

「…」

「か、たくらさん」

「…あ、お、おう!」

「それ持ってていいですよ」

「ッ!い、いや、これは、」

取り落とさんほどの勢いで慌てた後、冷蔵庫の扉にばしょんと貼り付けた。一安心。


「あとでそれも使いますよ」

「本当か!っあ、その」

ぱぁぁと喜んでから取り繕う片倉さんがやたら可愛い。あ、いやそういう可愛いじゃなくて。

台所を後にしてトイレへと向かう。
一階と二階にひとつずつあるから近い一階の方を。一回教えとけば十分だろ。
戦国時代ってトイレどうなってたんだろう。和式なのには間違いないだろうが。

「ここがトイレ。あーっと…なんっつったか…か、かわや?」

「これが厠か…」

「下脱いで、ここに座ります。拭くのはこれ。終わったらここ。こっちのは触らないでください。慣れたら教えます。」

「それは何なんだ?」

「あー、その、水が出ます」

「あぁ?」

「…今度やってみましょう」

どんな反応をするのかちょっと楽しみ。いや凄く楽しみだ。
楽しみが顔に出てたらしく、だ、大丈夫か と心配されたのは気にしないでおく。






(次は風呂場行きましょうかー)
(あぁ。して、さっきのにやけは何だよ)
(忘れてください)
(あぁ?)
(忘れてください)
(…わかった)


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