「一回だけでいいから、この通りですお願いします」 「いやだって言ってるだろ!」 何度も繰り返したこのやりとり。 ただ一度、キルアが首を縦に振ればわたしだってこんなにしつこく要求しないのだ。 「お姫様抱っこさせろ、なんて変な頼みだな。だいたい、普通はお姫様抱っこして、なんじゃないのか?」 眉を潜めながら問われた。 そんなに引かなくてもいいじゃない。 「いやいやわかってませんね!キルアくんのその小さい身体をわたしの腕のなかに納めてあわよくば恥ずかしがる顔を目に焼き付けたいな、って、思ってまし…ごめんなさい怒らないでください」 「…」 ゴゴゴゴと効果音が付きそうなほど不機嫌になったキルアくんは、こちらへにじりよって来てわたしを見つめた。 身長差があるから必然的に上目遣いになっている。 いつもなら小躍りするくらい喜ばしいことだが、今のこの状況では恐ろしいだけである。 「あんた、オレのこと子供だと思ってるでしょ」 「そそそそんなことないっす睨まないで」 「怒らせてる自覚あるならさ、一発殴らせて」 そう言うやいなや、思い切り腕を振り上げる。 ぎゅっと反射で目をつむり、痛みを待った。 だが想像した痛みはいつまでも来ず。 ゆっくりと開くと背伸びをしたキルアくんが。 「あんたよりは大人のつもりだから」 「えっ」 ぺろり 猫のようにしなやかで素早い動きでわたしの唇は奪われた。 「ファーストキス、ごちそうさま」 なんでキスしたのかだとかなんで初めてだって知ってるのだとか、色々考えすぎてすぎて頭がパンクしそう。 それなのにこの少年は実に楽しそうに唇を押し潰して遊んでいて、余裕な様子だ。 「…子供扱いしてすいませんでした」 わたしの謝罪に満足したのか、少し乱暴に頭を撫でた。 そして一言、耳元で言い放つ。 「もう一回、いいよね?」 恥ずかしさのあまり必死に頷く。よくできましたとたくさんご褒美をくれたキルアくんに幼さなんてものは、もうどこにもなかった。 |