今年もやってきたこの季節。例年なら特になにもせずに終わってしまうのだが、わたしは今キッチンに立ち後方でじっとこちらを見ている酒呑童子のためにチョコを作っている。 「でーきた!」 「先程から何を作っているのだ?」 いつの間にか背後に来ていた彼は耳元で囁いた。甘えたがりの彼はわたしに抱きつくのがお気に入りらしくなかなか離れてくれない。 「この時代ではね、2月14日にお世話になってる人とか友達、恋人にチョコレートっていうお菓子をあげるんだよ」 「ちょこれいと…?その甘い匂いがする物体か」 「うん、これだよ。食べてみるかい?」 皿ににいくつか並んでいるうちの少し歪な形をした一粒を選び口元へ運んでやる。初めは口に含むのをためらって何度も匂いを嗅いでいたが意を決したのかぱくりと食べた。 「…これは美味いな」 「でしょ」 「どんどん溶けるぞ」 弾む声と緩んでいる顔を見ているだけでわたしも幸せになる。が、次々に酒呑童子の腹に消えていくチョコ。あっという間に残り数粒になった。 「ちょっと待って食べ過ぎだよ!」 「わたしにくれるのだろう?」 「そうだけど…」 こういう贈り物には色々と準備が必要なはずだ。理解してほしい複雑な乙女心。 なにやら考え事をしているらしい彼はいつになく険しい表情だ。こちらを向けと囁いた声に促され振り向く。 「一緒に食べてしまえば文句も言えないだろう」 残り少ないチョコをさはんだ黒く長い爪がわたしの口内に押し込まれ一気に甘ったるい味が広がる。そして付けられた酒呑童子の唇。侵入してくる舌に舐めとられ肺に貯蔵されていた酸素が不足し始めた。もっと、もっととこちらへ擦り寄るせいで壁に背が当たる。互いの息が同じ香りに染まっていることに気づき顔の緩みが止まらない。 |