涙は燃えて





早くこの場から逃げなきゃ、頭では理解していても身体が動かないので意味がない。見飽きたこの部屋を脱け出したくて自由になりたくて毎日もがくがこの手足に繋がる鈍く光る金属の枷、そしてそこから延びる鎖は柱に巻かれている。あと何度この光景を見て絶望すればいいのか。壁も床もどこもかしこも真っ白なここにいると気が狂いそうだ。唯一色のあるのが枷と鎖というのがなんとも複雑である。

扉の向こうからこっちに歩いてくる気配、あいつだろう。同僚をいきなりこんな部屋に監禁しやがって馬鹿野郎はお前だと言ってやりたいがそんな度胸はない。何倍返しにされることか。
ゆっくりとドアが開き外からの空気が入ってくる。込もっていた生ぬるい空気が入れ替わりいくぶんか呼吸しやすくなった。でも許してやるつもりはないぞと睨む。

「また逃げ出そうとしたのか」

擦れて皮が剥け赤く腫れ上がるわたしの手首を掴みなぞる姿は憎いが色っぽく目が放せなかった。見とれていると全身に痛みが走りびくっと揺れてしまい、にやりと笑みをこぼすルッチ。しまった、思うつぼじゃないか。

「…なにしに来たの」

「お前に会いに」


いい迷惑だ。この男は別に恋人でもないのにわざわざ会いにくる。見た目によらずまめなところは見直したがその長所は違う場面で生かして欲しかった。

「俺がいるのに考え事か」

「…っ」

ドスっと重い音、痛い。左の頬を殴られた。まあ、いつものことだから多少は慣れてしまっているけど。あとどれだけわたしはこの生活を続ければいいのか問いたいが、それは誰も知らないだろう。



「綺麗だ」

うっとりした目付きで腫れ始めた頬に爪を立てる、酷い性癖だ救いようがない。うつむけば醜い青痣が。腕や破けた服から見える腹、太股や自分では見えないがおそらく背中にもルッチが付けた傷痕は沢山あるだろう。
ゆっくりと手が服の中へ入ってきた。少しくすぐったい。


ずぷり


一瞬何が起きたのか理解できなかった。恐る恐る腹に触れてみるとぬるり、ありえないほど大量の血。止まることなくどぷどぷと流れ続けている。
どうやらわたしは指銃されたようです。ルッチの行動が不可解すぎて眉間に皺が寄ってきた。解せぬ。
わたしが苦しんでいる間もえぐって楽しんでいるこいつを殴ってやりたい。どんどんぼやけていく視界。体を支えきれずに壁に寄りかかる、いっそのこと死んだ方が楽なのだろうか。
まずい、息が、荒くなってきた
ちょっとだけ、ちょっとだけなら眠ってもいいよね

瞼を閉じ意識を手放す前に聞こえた言葉は、
一生分からないままだった



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