暑い、気が狂いそうなほど暑い。夏だから暑いのは当たり前だけど。この異常な気温と室温にわたしのやる気は全て削がれていく。


「…………さぼるか」


次の授業は世界史、一番退屈な授業。戦意ゼロの今のわたしにとっては強敵、敵前逃亡しかない。さぼるのに最適な場所はベタだけど屋上だ。暑いと思ってる人もいるだろうけど、貯水タンクの裏は日陰になってるし風通しもいいからなかなか涼しい。
屋上に行くには鍵を取りに行かなければならないなと、ぼんやり考えながら職員室へ歩き出す。この時間帯だとどの先生がいるかなとかなりどうでもいいことを思いながら扉を開けた。


「失礼します」


わたしにしては珍しく声をはりあげた方だ。しかしそんな努力も虚しく返事をしてくれる先生はいなかった。その代わり、後ろから聞き慣れた変な笑い声が聞こえる。


「フッフッフ!こんな時間に何の用だァ?」


「……出たよ」


「おいおい、恋人に向かってその言い方は無いだろ?」


ドフラミンゴ先生。わたしとこの人との関係は、まぁあれだ、そういう関係である。


「学校で話し掛けないでって言ってるじゃん。」


「随分冷たい言い草じゃねェか」

我が恋人ながら鬱陶しいな、とか本音は言わないでおこう。


「屋上行きたいんだけど。鍵、くれない?」


「おれより屋上でのサボりを優先すんのか」


「うん」


「…ほんと可愛いくねェ恋人だ」


構ってやらないのが気にくわないのか眉間に皺を寄せ、珍しく不機嫌になったようだ。ただでさえガラの悪い顔なのにさらに悪化しているじゃないか。


「ちょっと待ってろ」


鍵を取ってくれるのだろう、職員室へ入ってくドフラミンゴ。鍵同士が擦れ合う音が響く。入り口に突っ立っていても邪魔になるだけだからわたしも中へ入った。
ちょうど探し終わったのかドフラミンゴも此方へ向かってくる。しかしその手に鍵は握られていない。


「え?鍵持ってきてくれたんじゃないの?」


「ああ、ちゃんと持ってきたぜ」


そう言うが見当たらない。
すると目の前のこの人はニタニタ不敵な笑みを浮かべ始め、べ、と唐突に長くて太い舌を出した。てらてらと濡れて光を放っていたのは紛れもないソレだった。


「なんで食べてるの…!」


「ほら、鍵が必要なんだろ?」


「……えろ魔神」


「フッフッ!えろ魔神で結構」
キスに誘惑されドフラミンゴへ近付いてゆく。派手なサングラスを外し目が合った瞬間、彼は捕食者に変わった。
今日もわたしはこの捕食者の罠に掛かるしか選択肢はないのだと思い知らされる。




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