ディーノ | ナノ


木の幹に背中を預けていつものように寝ていると、しばらくしてからガサガサとこちらに急いで向かってくるような足音が聞こえてきた。ベルトに忍ばせていた得物にそっと手をのばした。しかし、走ってきている主は気の抜けるような声で私の名前を呼んでいる。ため息をついて得物から手を離した。そして再び眠りにつこうと目を閉じた。ゼーハー息を吐きながら言われた「やっぱり此処にいた」という言葉は聞かないことにした。

「探したんっだ、ぞ」
「…………」
「おいこら」
「聞っこえませーん」
「…起きろよっ、」

やたら切羽詰まったような真剣そうな声で言うから仕方なしに目を開けばやたら目を潤ませたディーノがいた。え、なに、かわいいじゃない。ってそうじゃなかった。

「…なに?」
「スクアーロが言ってた」
「あ?なに、スクアーロにまた何か言われたの?」
「お前が、」
「……私?」
「学校辞めるって」
「ああ、うん」
「っ、なんで今まで言わなかったんだよ!!」
「怒鳴らないでよ。だって聞かなかったじゃん」

たしかに、私は明日からこの学校からいなくなる。今さらだしディーノも知ってると思ってたし聞かれなかったし。そもそも、この学校に卒業はあってないようなものだと思ってたから言わなくてもいつかこんな日がくるに決まっていた。

だって、どこかのファミリーに所属するのが決まればすぐにそのファミリーの本拠地へと行くから。現に私も母のファミリーで本格的な修行を積むために学校を辞めるわけだし。でも、

「辞めるってちゃんと言えばよかったね」

ごめんね。困ったように笑ってやれば、さっきまでの真剣な口調は何処へやら。ディーノは顔をくしゃくしゃにしてポロポロと涙を溢して鼻をぐすぐす言わせて俯いてしまった。まるで小さな子供みたいだ。ゆるゆるとディーノの頭を撫でてやれば「…バカ」という言葉が弱々しい声で飛んできた。うん、知ってる。私もあんたもかなりのバカだよ。だから気に入ってるの。

「バカって言うほうがバカなんだよディーノ」
「…知ってる」
「また会えるって」
「俺、手紙書くから」
「おう、書け書け。私は返事書かないけどね」
「酷ぇ!!」
「面倒じゃん」

そういえばショックを受けたような顔をしながら固まった。やっぱりディーノは正直すぎる。私と違って。でもそんなとこも好きなんだけどね。

「…手紙なんか書かないから、あんたが強くなって直接私に会いに来なさいよ」

私の手を優しく握りしめ、真剣な目をして頷く姿に心臓をきゅっと握られたような切ない気持ちになった。この姿をずっと網膜へ焼きつけておければいいのに。



手を握り合う私たちの間を淡い香りを纏った風が走り抜けた


涙墜さまに提出
レン/defect/0523