ピンク色のふわっふわの柔らかい毛を撫でればクゥーンと甘えるように鳴いて擦り寄ってくる。なになにッどうしたのどうしたの?お腹痛いの?ショーで失敗しちゃったの!?団長に怒られちゃったの!?じゃあわたしが団長を怒ってきてあげようかっ!実際に聞こえるのはキャウンキャウンという鳴き声。でも今にもそんな声が聞こえてきそうだ。ちいさな前足が私の膝にちょこん、と乗ってくる。 この子は本当に鈴木くんのことが大好きで、人間の女だからってわたし最初はめちゃめちゃ嫌われてたし、鈴木くんの見てないとこではいたずらっ子だし、手をやかされることもあったけど、いつも素直でがんばり屋さんで天真爛漫で、可愛くて可愛くて仕方なかった。くりくりとしたまん丸な目を見つめていたら視界がぼやけてきた。 「トイトイちゃん、」 名前を呼んだらくるりと辺りを一回りしてちょこん、と綺麗に座ってワフッと鳴いた。わたしが伸ばした手に誉めて誉めてと言わんばかりに鼻を擦り付けてくる。 またいつものいたずらならどれだけよかっただろう。わたしが他のサーカスのお手伝いに行ってる間に何があったの?団長も鈴木くんもみんなグルになってのサプライズ?みんなひどいなぁ。ねぇ、もう私充分びっくりしたよ。だからもういつもみたいに人の姿になっていいんだよ?ねぇトイトイちゃん、 ト イトイちゃ、ん トイトイちゃ‥っ‥ 。いくら呼んでも呼んでもトイトイちゃんは喋ってくれない。ついに限界を越えた涙がぼろぼろと溢れた。 ワンワンッワン!!どどどどうしたの!?なんで泣いてるの!?待ってて!いま鈴木呼んでくるからッ!!そう言わんばかりに一頻り吠え、タタタッと土を蹴って走り始めた彼女の姿はわたしの目では滲んで見えない。 しあわせの在処を知っているのに title 棘 |