007/指 | ナノ


日当たりのいい場所を探して、廊下に出た。そして廊下でたまたま声をかけられ政宗や元親と話していただけ。それだけなのにまるで怒気を込めたように隣の教室の扉が勢いよく音をたてながら開けられた、と思ったら教室から出てきてツカツカとこちらに歩み寄ってくる佐助。どうかしたのかとそちらを見ていたら真顔の佐助に二の腕をがしりと掴まれ、連れていかれる。はっ、?えええ?何事!?とひとりテンパる私ににやにやと笑いながら見送る政宗と口パクでがんばれと言いながら手を振る元親。なにがなんだかさっぱり分からない。


「さっさすけ、どうしたの」


呼びかけてもぴくりとも反応せずズンズン進んでいく足は止まらない。足がもつれて何度も転びそうになった。いつもの佐助なら、気にかけてくれるのに。私がなんか悪いことしたのだろうかと思考を巡らせてみるが思い当たる節はない。いつもよりもスピードをあげてズカズカと歩く佐助の表情が見えなくて悪い意味でドキドキする。屋上の扉の前まで来ると佐助がぴたりと止まった。まさか止まるなんて予期していない私は勢い余って背中に鼻を思いっきりぶつけた。地味に痛い。ぶつけた箇所を擦りながらすんすん音をたてて鼻を啜れば佐助がすごい速さでこちらを向いたので驚いた。


「泣いてるのかと思った」

何に、とは聞かなかった。佐助の考えを読み取れない今それを聞いても私はさらに混乱するだけだ。だから、泣いてない泣いてない、と笑いかければ眉を八の字に寄せて佐助は笑った。ああ、かわいい。しかし今はそれどころではない。

「それより、どうしたの佐助」と問うと一瞬、泣きそうに顔をくしゃりと歪めたかと思うとがっちり手を掴まれ、次の瞬間。かぷり。


「ひっ!ちょっ、佐助!?」
「…ふぁに?」


指!指、噛まれてる!
ふにゃりと蕩けそうなくらい甘ったるい顔をしながらこちらを見つめてくる佐助にこっちのほうが恥ずかしくなる。ふいっ、と視線を逸らせば意図的にやさしくだが、指に歯が食い込む。舌が指を這う感覚がやけにリアルに伝わってきてくすぐったい。


「! や!佐助!」
「んー?」
「やだっ噛まないで」
「えー、なんれ?」
「ひ、うっ」
「あー、それかわいい」


かわいいと言われてか、はたまたこの光景を見てか顔にぶわあと熱が集まってくる。いやいや、なに流されてるの!?わたしこんなの耐えらんない無理無理!!ぐぐぐっ、と空いたほうの手で佐助の額をやんわり押し返して咎めるように名前を呼んでせめてもの抵抗を試みた。が、逆効果だったらしい。


がぶり。


今までの噛み方が嘘みたいに力を込められ、思わず抵抗するために額に当てていた手にも力がはいる。「いっ、」痛みに思わずぎゅっと目を閉じた。しかし所詮男女の差によりわたしが佐助に力で敵うはずがない。ああ、痛い。噛まれていた位置が微妙にずれて痛みが広がる。


もう指の感覚がないです限界です、と言わんばかりにぺちぺちと額を叩けばしぶしぶ指を離してもらえた。痛みからじんわりと目の縁に水の膜が張ったのが分かった。噛まれた指を撫でながら「怒ってるの!?」と言えば「え、勿論」と笑い返された。



「俺様、独占欲強いからさ」


あんまり妬かせないでね。
手を取り、ちゅっと甲に唇を触れさせた佐助に違う意味で目眩がした。私の指には見事に赤く途切れる輪っかが存在を主張していた。


よそ見しないで


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