神田 シリーズ | ナノ


一応神田の荷物があったから橙色の射し込んでくる教室に適当に戸締まりをして駐輪場へ向かった。が、よく考えたら今日は神田んちまで神田を迎えに行ってから学校に来た。イコール神田は私のかわいいかわいい愛車がなければ歩いて帰らなければいけない訳で。

いっそ歩いて私という存在の有り難さに気づけばいいんじゃないかと思った。が、しかし、いつのまにか従順に躾られていた私は玄関を出る直前に自然と鍵のかけられていない無用心極まりない神田のロッカーに鍵を置いていた。いやいやいや、置いていってやる義理ないし先に帰れって向こうが言ってきたんだから自分で帰らせればいいよね。と思う反面それを実行できないのは私が神田のことを好きだからなのか。うーん、向こうはどうよ。私はなんなんだ。もやもやと沸き立ちそうになる気持ちを抑え込もうと力強くロッカーのドアを閉めてやった。ドアへこんだ気がしなくもない。…うん、黙ってればバレないバレない。


「ちょ、何!?どした!?」
「…べつに。あ、今日乗っけて」
「え、鍵持ってたっしょ?」
「残念ながら神田のロッカーに放り込んだからもうないかなー」
「あらま。じゃあ、ちゅーしてくれたら乗っけてってやるさ」
「シネ」
「ちょちょちょ!ユウの口の悪さが移ってんだけど!」

神田の口の悪さが移ってる…、ね?私はこんなにも着実に神田から感化されてるのに、私からあっちへと伝わったものはどれだけあるのだろう。きっと、私から彼へ移ったものを数えるのは両の手で足りてしまう程度だろう。はあ、とため息をつきたくなるのを堪えて玄関を出た。まだ上履きを脱いでいなかったのかラビがあわててバタバタとロッカーを閉め、靴を履き替えていた。あまりに必死な「置いてかないで!」の表情は下手したら今日の夢に出そうなくらい怖かった。

「…置いてかないよ」
「まじ!?」
「うん、自転車乗れなくなるし」
「ちょっ正直者!本音隠して!!」

「はい、どーんっ」
「うおおお!?」

背後から飛び掛かられ、思わず女の子らしからぬ声が口から出ていった。ラビと話すのに気をやりすぎて後ろに迫っていた人に気づけなかった。本気で体重をかけてくる辺り、こんなことをする奴を私は一人しか知らない。いつまでもよたよたと転びそうになっていたらちゃんと靴を履いたラビに二の腕をつかまれ支えられる。

「あれだけ近付いたのに気付かないとか、大丈夫ですか」
「えっ、謝られるどころか私馬鹿にされてる?」
「…今のはアレンなりに心配して言ったんさ」
「あ、そっか。もー、アレンってば照れ屋さん!」

照れちゃって可愛いねー。 いや俺のほうが可愛いさ! いやいやそれはない!とか、ラビと言いあっていたら気持ち悪いものを見るような目付きで見られ、心底不機嫌な声で「はぁ?」と言われた。やだ、なにこの子怖い!

「なんですか謝ってほしいんですか?仕方ないですね…… ゴメンネッ」
「謝られてるはずなのになんでこんなにイラッとすんのかな」
「可哀想に。きっとラビのせいですね」
「そっかラビのせいか」
「ええええ?」

無理矢理オチをラビに擦り付けて平然とした顔をアレンと2人ですることにした。今日はこのままあのもやもやが帰ってこないことを願うしかない。

- ナノ -