さわってごらん | ナノ


僕の職業は仮にも公には公表しやすいとは言えない裏社会の仕事だ。マフィアの幹部。一般人が聞けば顔をしかめたり偏見や中傷に近い意見をいう奴もいるかも知れない。そんな仕事をしている僕が父親になった。

牛丼も元はと言えばボンゴレ幹部の一員だったけれど僕が無理を言って辞めさせた。牛丼が病気だと知った僕は彼女に少しでも多くの時間をあげたかった。彼女は笑ってくれたけれど、今となってはそれは正しかったのかそれとも僕の独占欲からくる身勝手なエゴだったのか分からない。

でもとにかくボンゴレの幹部ともなれば仕事をそう簡単に休む訳にはいかない。部下に指示をだして書類を片して任務が出されたら世界の何処であろうと飛んでいかなければならない。そんな僕に1人で子育てが出来るか不安で仕方がない。まあ、まず不可能だろう。だから僕は今ついこの間退院した僕の子、天丼を連れてボンゴレのアジトなんかに来ている。連れていきたいか連れていきたくないかと問われれば答えはもちろんNOだ。誰が好き好んでこんな(様々な意味で)危険な場所に子供を連れてきたいと思うだろうか。少なくとも僕は思わないし、もし連れてきたいかなんて思った奴は一度病院に行くべきだとさえ思う。

車に揺られながら首の座っていない様子の我が子に内心ひやひやしつつも、そろそろ本部に着く頃だからと抱え込んでやるように抱いていた天丼を籐の籠へと移す。真っ白のベビー服からちょこんと出た指に僕の指を差し出すときゅうっと握り返してくる。くりくりとした大きな目で静かに、これから何処にいくの?とでも言うように僕を見つめ返してきたから思わず「大丈夫だよ」とやわらかい髪の生えた頭を撫でてやる。



「うっわー…、かわいい」

ソファーに乗せた籐の籠のなかにいる天丼を覗き込むように見た綱吉の最初の感想はこれだった。側にいた山本は「ちっちぇー手してんのな」なんて天丼に指を握らせて笑っていた(勿論、しっかり手を洗わせてから触らせた)。側に控えていた獄寺に至っては気にはなっているようだが近寄るに近寄れずにいた。はっ、いい気味だ。一方、天丼はといえばいくつもの知らない顔に覗かれているというのに神経が図太いのか寛大なのか物怖じや人見知りもせずに声をあげて楽しそうにしている。こういうところは絶対に母親譲りだ。少なくとも僕ではないと思う。そんなことを考えつつコーヒーを飲んでいたら雲雀!となんども名前を呼ばれ煩わしく思いつつもそちらを向けば山本武がニッカリと笑いながらこっちを見ていた。

「なあ、名前なんてーの」

綱吉をちらり、と見れば俺も知りませんよと言いたげな視線を返された。そういえば聞かれはしたが教えてない気がする。「…天丼」と呟くように言うと天丼が返事をするようにきゃっきゃと笑った。もし分かるんだとしたら、すごいね。

コーヒーをテーブルに置いて、もみじみたいな小さな手をうえにあげている天丼に近づく。すると僕だと分かったのか天丼は「あっああ」と小さく声をだした。ちゃんと言わなきゃ分からないよ、なんて意地の悪いことを一瞬考えたけれどいくらなんでも無理に決まってる。頭のしたに手を添えて抱き上げてやれば、見つけた!と言わんばかりににんまりと笑った。おしりの辺りをやんわりぽんぽん擦るように叩いてあげると心地よくなったのか目をしぱしぱと瞬かせた。

「慣れてますね」
「…そりゃあ慣れるよ」

この子には僕しかいないんだから。僕もこの子に本気で向き合うよ

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