夢 | ナノ

「半兵衛、」震えそうになる声が悔しくて悔しくて仕方なかった。秀吉のつくる世を一番望んでいた彼が、なぜこんな。半兵衛の体をじわじわと蝕むその病を自分へと移してやれたらどれだけの人が喜んでくれるか。私には到底出来ない新たな天下への道をつくれるこの男はもう戦場へ立つことも出来ないのだ。ゆっくりと真っ白な手に自分のそれを伸ばし重ねると、彼はゆっくりと目をあけた。

「いきなり人の部屋に入るなんて感心しないね」

口ではそう言いつつも半兵衛の目は優しげに細められていて彼がまだしっかりと此処に存在しているんだと教えてくれる。「半兵衛や秀吉にしかしないよ。それに私にそんなこと言っても無駄だって知ってるよね」彼は戦場から離れて、痩せた。ただでさえ細かったのに今は抱きしめたりすれば容易く折れてしまいそうなくらいなった。戦場を離れてから彼は出歩かなくなった。自分の部屋に籠るようになり、布団に寝たままでいるようになった。

「僕がいなくなってもちゃんと君のことを叱ってくれる人を探さなければいけないね」
「な、」
「それに君もそろそろ何処かに腰を落ち着けてもいい頃合いだと思うしね」

目をやんわりと伏せてそう告げた半兵衛。まるで着実に近付いてきている死を受け入れるようで悲しかった。

「いやだ。そんなのいらない」
「おやおや、欲しがりの君らしくない我が儘だね」
「半兵衛、」
「そんな顔をすると貰い手が益々減ってしまう」

分かっているくせに、卑怯だ。私の我が儘を聞いてくれるのなんて半兵衛だけでいいし、私を叱るのも半兵衛だけでいい。貰い手なんかいらない。本当はどう思っているかも知っているくせに。なにもかも分かっているくせに何もいってくれない半兵衛は本当にずるい。

「きみの願いを叶えられなくて、すまないね」


置いて逝かないで

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