夢 | ナノ


何処にいてもただ息苦しくて、息苦しくてたまらない。自分が此処にいる意味はどこにあるのか。呼吸と呼ぶだけの息はできるのに行き場がないから息苦しい。

捌け口と呼べるものがないから、私の息苦しさはいつまでも私の内側をぐるぐると巡り続ける。「お前が強いのは分かってる。だけどいつでも相談してこい」そう笑ってくれる存在がいない訳じゃない。ただ素直に甘えられない。優しさに甘えて拒絶されるのが怖いだけ。もしも、一時の穏やかさを求めてこの息苦しさをすべて吐き出しても、嫌われない保証が何処にあるというのだろうか。違うよ、私は強くなんかないんだ。強いフリをして精一杯の虚勢を張って身を守ろうとしてるだけなんだ。

無意識のうちに0ボタンと発信ボタンを押してしまう。気づくのはいつもプルルルと無機質な機械音が耳元で何度か聞こえたとき。切らなければと思う次の瞬間には通話の始まるプツンという小さな音が耳に届く。「はい、もしもし、」とすこし舌っ足らずな声に相手が寝ていたことが易々と伝わってくる。ああ、またやってしまった。


「いろはちゃん、どうしたの」
「…ごめん。寝てたよね」
「平気、気にしないで。どうしたの?」
「ごめん。本当にごめん。ごめんなさい。なんでもないから電話切って」
「どうして?」
「だって、なんでもないんだよ?だから、切ってくれて大丈夫だから。ね?」
「なんで。俺様切らないよ。切れるわけないじゃん。…どうしても電話切りたいならいろはちゃんから切って」
「………」

切れるわけがない。無意識に求めるくらいになってるのに、自分からそんなこと出来るわけがない。たとえやったとしても結局家に帰って布団にうずくまって延々ぐずぐずと泣き続けているところに佐助に力ずくで乗り込んでこられてしまうに決まっている。「いろはちゃん?」じわじわと目尻いっぱいにまで涙が溜まってくる。涙を堪えようと口を一文字に結ぶと唇がぶるぶると情けなく震え、汚い嗚咽が口から飛び出してくる。ごめん、ごめん佐助。私が弱虫でごめんなさい。強くなれなくてごめんなさい。

「…………ぅうえ、」
「どうしたの?」
「ごめんんん、ごめんねぇ…」
「ううん、大丈夫だよ」

大丈夫大丈夫と何度も言い聞かせるように言ってくれる優しい声色にただ嬉しいのと悲しいのがぐちゃぐちゃに交ざって涙がぼろぼろと止まらなくなる。

「わた、わたしっ、また頑張ろうとっ思ったんだけど…っ」
「大丈夫。頑張ってたこと知ってるから」
「でもっ、でもぉ……、」
「でもちょっとしんどくなっちゃったんだよね?」
「うんっ、うん…」

すべてを見透かしたように相槌をくれる佐助の声に思わずその場に立ち尽くすしかなくなる。道のど真ん中で立ち尽くしたままわんわん泣き出す私は迷惑極まりないだろう。それだけじゃない、分かってるんだ。佐助にだって迷惑かけっぱなしなのは分かってる。なのに頼っちゃってごめんなさい、ごめんなさい佐助。子供みたいにわんわん泣きつくことしかなくてごめん。大人みたいに平気なフリして笑いことしか覚えなくてごめんなさい。

「ねえ、今どこにいるの」
「…いっ家」
「うそだ」
「ほ、ほんと」
「もし本当だとしたらいろはちゃんち家んなかに道路でもあるの?車の通る音がやたら聞こえるんだけど」
「気のせい、だよっ」
「分かったから。今どこにいるの」

渋々、周囲にある目立つものを探してみるがなかなかいいものが見つからない。ただ携帯と財布をポケットに引っ掴んで気分のまま足の進むままに歩きまわったのだから。何処の近くをふらふらと歩いているのかさえあまり記憶にないのだから本当に厄介でしかないだろう。

「ごめん、佐助」
「どっち方面に歩いたの?」
「多分、西。夕日見ながら歩いてたから」

そうこうしていると何処からかオルゴールのような音が聞こえてきた。聴いたことがある音だ。たしか、以前聴いたのは3駅行ったところのからくり時計だったような…。ただ音のするほうへと歩みを進めていけば電話越しにもそれが聞こえたらしくフローリングをバタバタと走るような足音がした。「場所わかった。今から行くからそこから動かないでよ」とスニーカーの靴底がコンクリートを擦り、カチャンとチェーンロックを開ける音に心臓がとくりと穏やかに鳴った。


100807/defect/レン
精神安定剤な役割をする佐助を書きたかったのに…無念…

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