夢 | ナノ


私とラビの間にはきっと出会ったときからずっと見えないラインかなにかが引かれているんだと思う。例えば、滅多に人に見せようとしない涙や感情を殺した作った笑顔、何より自分のことをあまり深く告げないこと。それはラビからしたら全然なんでもないことなのだろうけど、私からすればそれは少し寂しくて悲しくなる。

信頼、とは少しチガウけどやはり仲間だから、なんでも知りたい。と思うのは私の身勝手なエゴでしかないと分かっているのに私はそれを抑えつけられない。

「ラビ、」
「ん?」
「楽しくもないときに笑ってて、疲れないの?」
「…!」

私が告げた途端に明るかったラビの瞳は見開かれた。そして視線を少し泳がせて一瞬、暗くなった。誰に咎められても仕方ないこの状況は私が失礼なことを言ってしまったから生まれたのだ。だけど私は嫌味でそれを言った訳ではなく、単なる興味本位の好奇心だ。知りたい、しりたい。小さな子供がまだ知らぬことを必死に知りたがってやまないような、一時の感情。

「いろははなんでそう思うんさ?」
「ラビが私達といて、本心で笑えてる時が少ないから」
「そう見えてたか…。なんか、ちょっぴり寂しくて、不謹慎だけどすっげぇ嬉しい」
「…嬉しいの?」
「うん」

どうして?と少し首を傾げながら問えばラビの大きな手のひらが私の頭にふわりと優しく乗せられてゆっくりと髪を撫でる。すごく、あったかい。見上げたラビの瞳には優しい光があって、何故だか胸がきゅうっと締め付けられるようだった。

「だってさ、いろはが今言ったのは俺のこと察してくれたから言えたことだと思うんさ」
「…ただの興味だよ」
「俺からはそういうふうに見えなかったからいいの!」
「ええー」
「こらっ、ええーじゃないの!」
「なんか、そのしゃべり方ジェリーさんみたいだね」
「まじでか」
「うん」

じゃあ止めとこっかな…、なんて私の隣で呟くラビは至極楽しそうで、私まで頬がゆるんできた。ああ、私はきっとこの笑顔が好きなんだ。

「…なあ、いろは」
「うん」
「ありがと、な」
「…うん」

恥ずかしくなったのか視線をはずされたがちらりと盗み見たラビの表情はどこか楽しげで、でも嬉しそうで、私の心音を大きくするのには十分だった。


100627 再録
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