「龍の花わずらい」より、ハクライとイトキ。






「…ふう、」

だいたいの画策はまとまっていた。あとはハクライさえ上手く取り繕ってくれたら良いのだ。イトキは案が纏まった安堵と、これからの不安に大きなため息をついた。国の安泰の為、気を張らす毎日。そしてこれから更に加わる重い秘密。考えただけで頭痛がした。

「…あとは任せてください」

こんなときでも飄々としているハクライは息の詰まるような部屋でもにこにことしている。そんな彼をイトキは恨めしそうに睨んだ。

「寂しいです?」
「ふん、誰が…」

寂しく無いと言えば嘘になる。信頼する夫を嘘とは言え罪人として追放するのだ。不安と苦しみに押し潰されそうになる。それでも彼女は自分が弱音を吐いてはいけないと強く気を持っていた。
しかしそんなイトキを見てハクライは眉を寄せた。


「…私が居ないあいだ無茶をしないでくださいね」
「なにを…」
「貴女は少し頑張り過ぎる。」

ハクライの瞳が眼鏡越しに揺れた。
彼もまた不安と戦っていたのだ。イトキと娘のシャクヤのことを思うと身が張り裂けそうな思いであった 。

「画策とはいえ、貴女たちを置いて行くのは心苦しい」

「でも必ず、またこうして添い遂げますから」
「…ああ、」


ハクライの手がふわりとイトキの髪を撫でた。イトキは思わず彼を見る。


「死ぬな」
「はい」
「絶対に戻って…」
「わかってる。」


す、とハクライが唇を寄せた。
彼の髪が揺れ、なびく。







あの日から待ち続けていたのだ。
龍の長はひたすらに、彼女の愛しい人を。



(龍の花わずらい)


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花ゆめ祭第1弾!
龍の花わずらいよりシャクヤの両親!でした。
大好きでした…あの夫婦…!


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