お嬢はきっと何も分かっていない。犬の血を濃く受け継いだ俺が自分の事をどう思っているかなんて。考えてすらいないだろう。お嬢が花の匂いをとくにさせていたあの日、俺は自分を抑えきれる自信が無かった。頭がくらくらして仕方がない。遥が止めに来なければどうなっていたか分からなかった。
家に着いてしばらくしてもお嬢の甘い匂いは消えなかった。鋭い嗅覚のせいで彼女の残り香とさっきまで嗅いでいた匂いがずっと残っているのだ。直ぐに服を脱いでシャワーを浴びたが、それは消えない。なんだ、これは。俺はお嬢の事が…?

(お嬢は何もかも甘すぎる)

匂いも、仕草も、それに俺たちへの認識も。昼間飲んだハーブティーの甘さが思い出されて苛々する。遥の為に配合したハーブティーは確かにうまかった。あいつだっていつケモノになるか分からないのに、無防備過ぎるのだ。
最近は寝ても覚めてもお嬢の事を考えてしまった。挙句仕事中にまで。どうして俺があんな小娘に振り回されなければならないのか。そう、悔しく思う事もあるのだが、お嬢に会うたびにそれは掻き消されてしまう。どこか大人びている高月の娘。大切に守られて、大きな秘密を隠している。そんな大きすぎるものを背負わされて生きる小さな女。

(ああ、花の匂いが消えない)

これはもはや恋情なのかなんなのか、抱いている自分にさえ分からないのだ。

(愛を恐れる獣)
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「うちのポチの言うことには」より隼と花織でした。リクエスト下さった方、ありがとうございました!ポチとお嬢じゃなくてすみません…(^^;;



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