どうしたってうまくいかない。何度もあの女を嫌いになろうと思ったけれど、自分の気持ちを認識した途端嫌悪は好意に変わってしまう。梶さんは兄の妻だ、いや、それは認めていないけど、少なくとも彼女は兄を愛しているのだ。だからどうやったってこちらを向いてくれない。宣戦布告してみせたりしても、兄に敵わない事は分かってる。

「あれー翔馬くん?1人でお昼食べてるの?」

聞き覚えのある声に思わず反射的に顔をあげてしまう。首を傾げた梶さんがこちらを見ていた。座れば、なんて素っ気ない言い方をしながらも彼女を招き寄せることに成功した。きっと僕の気持ちなんか考えてもいないんだろうな。

「翔馬くんまたパンだ!パン好きなの?お腹すかない?」
「梶さんみたいな大食い女と一緒にするな」
「なにそれ!」

梶さん、と呼びたくなるたびに悪口を一つ言う。気持ちを伝えたくなるたびに意地悪を一つする。そうしていなきゃ僕が壊れてしまいそうだった。

「髪がばさばさだな」
「う、うるさいわね!」
「結んでやるよ、ほら」
「…え?」

とっとと向こうを向け、と言えば彼女は渋々反対側を向いた。一度髪を解いて結い直してやる。

「前もこうやって、やってもらったよね」
「…ああ、そうだな…」

そんな些細なことを彼女が覚えてくれているだけで心臓が破裂しそうな程嬉しかった。ああ、僕はきっと今すごい情けない顔をしてる。

「翔馬く…」
「今こっち向いたら許さないからな」
「ええ?何よ急に!」
「良いから!向こう向いてろ!」
「もうー」

こうしてずっと彼女の側に居られれば良いのに。叶わないのだろうと思うたびに僕の胸はずきんと痛むのだ。


(手がとどかないのに求めたり)
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「キスよりも早く」より翔馬と文乃でした。リクエスト下さってありがとうございました。やっぱり片思いはいいですね…!




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