人間というのは死んだら一体どうすればいいのだろうと思った。アンの肉体はみるみるうちに冷えて行って最後には硬くなった。きっと墓でも作ってやればいいのだろうと思ったけれどアンには家族のようなものがいない。居たとしても僕が急に訪ねて行ってアンの亡骸を手渡せるかといえばそんなことは叶わなかった。だから僕は魂の無くなった身体をその森に埋めた。深く深く土を掘ってその中に手を組ませたアンを入れ、ゆっくりと土を掛けた。アンは今でも静かにその森の中に眠っているのだろう。
つきん、と失くしたはずの左目が疼いた。僕はその森を離れて占い師を追った。僕の気持ちがアンに傾くと、そんなところまで読んで、悪魔の目を奪って逃げた狡猾な占い師。自分の死に巻き込まれて死ぬ人間達を助けたいと言って自分の魂を捧げたアンが死んであんな奴がのうのうと生きてゆくなんて許せなかった。僕は怒りに任せて占い師を探した。相手はこちらの動きを読んでいたようだったが、ついには追い詰めた。そいつの命乞いなどには耳を貸さず一思いに殺してやった。ずきん、と左目が痛む。一回目より痛みの増したそれはまるでアンが名前を呼んでいるようだった。ずきん、ずきん。痛みはみるみる全身に回る。どうしてか涙が出そうで僕は左目に触れた。そこにはもう眼球はないのだけれど、空の眼窩は何度も僕の名前を呼んでいた。

「アン、君の仇はとったよ。だから苦しんだりしないで、安心してお休み」

ありがとう、とアンが囁いたような気がした。


(いちばんうつくしい言葉で呪いの錠をする)
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「ガートルードのレシピ」5巻より「レクイエム」のカーティスとアンでした。草川さんのこういう切ない話、とても好きです。
リクエスト下さってありがとうございました!


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