※ギル戦後
目が覚めると視界には白い天井が入った。壁に掛かっていた時計を見ると針は夜中の時間を示している。 起き上がろうとすれば身体、特に腹部の痛み走ることから、どうやらあれは夢ではなく、現実。ギルのシュートを受け、傷付き、運ばれる最中に意識を失った。ルートエージェントとして、キーパーとして情けない話だ。 痛む身体にムチを打ってベッドから起き上がり、床に足をつける。立とうとすれば全身に更に激しい痛みが走った。試合はどうなったのかと気になるのに、これはどうしようもない。
「おや、起きたのかい?ルジク」 「ガンマ!」
開く自動ドアから医務室に入ってきたのはガンマだった。叫んだ瞬間胸に激痛が走り咳き込むと、ガンマは慌てて俺の背中を擦ってくれた。今日のガンマは何だか優しいな、俺が倒れた時も血相変えて駆け寄ってきてくれたし。
「…その様子なら平気そうだね」 「え?」 「顔がにやけているよ」
え゛、と顔を両手で包み確認する。何となく頬の筋肉が上がっている気がした。だってほら、自分のことしか興味のないガンマが、俺を心配してくれたんだ。嬉しいじゃないか。なんて、心の中で言ったって意味はないのだけど。
「試合結果は?僕の代理は誰だったの?もしかしてザナークと代わったあの倉間って子じゃ、」 「ルジク、慌てすぎだ。一から話すから落ち着いて」
咳も止んだのに、ガンマは僕の背中を撫で続けてくれた。なんだか心地好くて眠たくなりそうだ。
「まず、試合は僕らエルドラドチームの勝ち。君の代わりはサカマキさんの作ったアンドロイドが入った。以上だ」
勝利報告までは良いけど、何だそのアンドロイドって。問い詰めたいのは山々だけど、勝利と聞いた瞬間ドッと詰め寄せた安心感と疲れに、またベッドに倒れ込むように寝転んだ。 ガンマは俺に何かあったのかと覗き込んできたが、平気だよと微笑めば彼は安堵のため息をついた。
「試合のこと、色々聞きたいのに何だか一気に疲れちゃった。眠りたい」 「ああ、君は怪我人なんだ。ゆっくりと休むが良いよ」
ガンマはそう言うとベッドの脇にある椅子に腰かけ、ゆっくりと目を閉じた。予想だけど試合内容はよっぽど大変だったのだろう、ガンマはすぐにうとうとと頭を揺らし眠りかけていた。 時計を再び見れば、やはり針は夜中を示していた。もうみんな寝静まっている時間だろう。何故、試合で疲労していたガンマは起きていて、俺のもとに来てくれたのだろう。考え込み、思い付くのは俺に都合の良いことばかり。
「まさか、ね」
俺を心配して眠れなかったとか。そんなことは俺自身の妄想で十分だ。 本当はガンマを部屋まで運んでやるか、ベッドに寝かせてやるべきところだけど、生憎それは負傷した俺には無理なこと。仕方がないと毛布を椅子に座り眠る彼に掛けてやる。この寝方じゃ疲れなんてとれそうにないけど、まあ良いか。余った薄手の毛布を掛け、俺は目を閉じ夢の世界へ旅立つのだ。
20130221
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