「ねえ、私のもとで働かない?」

大空遥の一言に、私は思わず手にしていたコーヒーカップを離してしまい、床にぶちまかれるミルクで薄まった色のコーヒー。大慌てする私に対してクスクス笑う大空遥に、思わず睨み付けるが彼女にそんなの通用しないのは重々承知済み。睨み付けるのは癖みたいなものだから、仕方がないのだ。
コーヒーを拭き終わったところで大空遥と目を合わせ様子を伺う。嘘を言っているようにも、からかっているようにも見えない。見えないのに、何となく真剣さが感じられない。まあ、それが大空遥という人間なのだろうけど。

「私を自分のもとで働かせる?貴方は何を言ってるか分かっているの?」

私はニックスの監視付きという条件で仮釈放されたばかりの、犯罪者だ。しかも世界を滅ぼそうとした重罪人。それがかの有名な大空博士のもとで働くなど、信じられないことだ。

「貴方、とても優秀だから良いと思ったのだけど」

自分のコーヒーカップで呑気にコーヒーを飲む彼女を見て、私はため息をついた。よくこんな呑気な人間が最高知能のアダムとイヴを産み出せたものだ。

「それに、貴方とても興味深いわ。近くで観察してみたい」
「…いつ、また貴方に武器を向けるか分からない私を?」
「あら、その時は優秀な息子に助けて貰うわ。それに、貴方はもうそんなことしないでしょう?」

度数が強い眼鏡をしているために、たまにしか見ることの出来ない瞳が見えた。こちらを射るように見つめるその瞳に思わず肩を揺らす。私が睨み付けるのとは全然種類の違うそれ。

「…待遇は良くしなさいよ」
「その辺は任せておきなさい」

射るような視線と変わって、私に優しく微笑む大空博士。…こんな見ていて飽きない人間のもとで働くのも、悪くないかもしれない。


光は差し伸べられた/title by 寡黙
20130218



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