「もちもち、きなこもちー!!」

予告もなしに発動された必殺技に流石の俺でも驚き身構えた。間一髪でそれを避けるが、避けた瞬間に必殺技の発動者のタックルにより退路を絶たれる。

「なんのつもりだ、黄名子」
「えへへ、もう逃げられないやんね!」

タックルの衝撃と黄名子を受け止めたために地面に倒れ込んだ。何の悪気もなさそうにこいつはにこにこと笑う。受け止めたと同時に抱き止めた腕をほどき、起き上がり黄名子を膝の上に座らせる。

「じゃーん、黄名子特製のチョコレートやんね」
「あ?チョコ?」
「なになに、ザナークはバレンタインも知らんの?」

俺だってバレンタインくらい知っている。どんな行事かも、だ。知っているからこそ差し出されたチョコに眉をしかめる。

「俺にくれるのか」
「くれるから必殺技まで使ったんでしょ、逃げられたら折角のチョコも勿体ないやんね」

包装を解き「あーん」とチョコを差し出すものだから、大人しく口を開けそれを口に含む。簡単な包装と不格好なそれを見る限り、多分手作りなんだろう。そもそも黄名子特製と言っていたか。チョコを噛み砕きながらそう思い返す。

「…何だ、中に入ってるこの柔らけぇの」
「きな粉のお餅!」

そう言うと思ったぜ。と決まり文句を言いたいところだが、餅しかレパートリーがないのかこの女は。げんなりしながら、口に残るチョコを飲み込む。いくらなんでもチョコにきな粉餅はないだろう。

「もしかして美味しくない?」
「…不味くはねぇ」
「本当?良かったやんね」

嬉しそうに笑う黄名子を見ていると、口の気持ち悪さはどこかへ吹っ飛んだ。そんな気がした。



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