「あの、剣城さん」

みんなより一足先に出たサッカー棟の外。松風さんたちと出てきた彼に勇気を出して声をかける。突然のことで剣城さんは驚いた様子。私は何となく緊張して、後ろに隠しているラッピングしたチョコレートをがさりと触る。
そう、今日はバレンタイン。剣城さんはこんな浮わついた行事に興味なんかないだろう、そう判断していたから前日まで渡す気はなかった。なかったけど空野さんや他のマネージャーさんたちが許してくれなかった。そして、渡すタイミングを逃し続けて部活も終わり空が真っ暗なこんな時間になってしまったのだ。

「天馬、信助、私たちは帰ろう?」

勝手に行われた打合せ通り、空野さんは私と剣城さんを2人きりにして帰ってしまった。通りすぎ様にウインクをし「頑張ってね」と小声で言われたけど、これは頑張れる気が全くしない。

「どうかしたのか?」

いっこうに何も喋らない私に痺れを切らした剣城さんが口を開いた。ええい、何だもう。半分妬けになって、隠していたチョコレートを彼の眼前に差し出す。

「つ、剣城さんはバレンタインなんて、浮わついたことに興味ないとは思うけど…受け取って、ください」

だんだん小さくなる声が余計に恥ずかしくて、視線も段々と下に向かう。すると手に持っていたチョコがなくなる。パッと顔を上げればそこには私の持っていたチョコを持つ剣城さん。辺りが暗いからあまり分からないけど、少し顔が赤い気がする。

「遅いんだよ」
「え」
「こっちは1日中待ってたんだぞ」

剣城さんが私から顔を背けてそう言うのを聞いて、私は思わず大きな声を上げ驚いてしまった。いやまさか、なんて思うけど落ち着いて思い返せば、今日の剣城さんはなんだか落ち着きがなかったような、気もしないわけじゃない。

「…とりあえず帰るか」
「そ、うだね」
「…ありがとうな、神代」
「う、うん…」

いつの間にか指が絡むように手が繋がれて、その手は剣城さんのポケットの中にあった。




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