「三重内、バレンタインだからチョコちょうだい」
「…校則違反」
当たり前のように手を出してチョコをねだる影浦に、僕もまた当たり前のことを言い返す。すると彼は口を尖らせて「ケチ」と僕に言う。ケチで結構。何のために校則があると思っているのだろう。
「女子から貰えたんでしょ?別に良いじゃない」
「あれ、見てたの」
「…たまたま視界に入っただけ」
そう、たまたま朝、下駄箱で女子が影浦にチョコを渡そうとしているところが視界に入っただけだ。決して意識をして見たわけじゃない。
「あれなー、断ったんだ。校則違反だぞーって」
「…」
影浦らしいというか、なんというか。ていうか校則違反だと知っているなら僕にねだらないでよ。にこにこ笑う影浦にため息をつく。
「…部活が終わった後」
「後?」
「コンビニ行こうか、チョコ買ってあげる」
「本当?!あれ、買い食いも校則違反じゃね?」
「今日だけ、特別ね」
顔を背けてそう言えば影浦が僕の名前を叫んで抱き着いてきた。…チョコ買うのやめてやろうかな。いや、まあ、冗談だけれど。