フェーダの共用スペースであるキッチンに充満する焦げ臭い匂い、そして目の前に置かれる黒焦げの物体に思わずため息をついた。覗き込んできたメイアも苦笑して「どんまい…」なんて励ましてくれるけど、これはどうしようもない。
明日はバレンタイン、サルのためにチョコケーキを作ろうとした。けど分量を間違えたのかオーブンの時間や温度設定を間違えたのか、わからないけど真っ黒焦げのケーキが出来上がってしまったのだ。隣に置かれたメイアがギリスのために作ったケーキは完璧だというのに。

「何だか焦げ臭いけどどうしたの?」
「サ、サル!」

サルの声に思わず顔を上げる。メイアが声を上げて彼をキッチンから追い出そうとする、けどそんな彼と目が合ってしまった。情けなくても思わず涙が目に滲む。

「…なんとなく分かった、メイア外してくれない?」
「で、でも」
「メイア」
「…分かったわ。ごめんね、ニケ」

私に悪いと思ったのか一言謝り、キッチンを出ていくメイア。
焦げた匂いのするキッチンにサルと2人。何故サルはメイアを追い出したのか、今はそんなことどうでも良い。気まずくて下げていた視線を上げ確認をすれば、サルはじっと私作った焦げたチョコケーキを見ていた。それに気がつき、私は急いでそれを回収する。見られた、恥ずかしい。

「…なんで隠すの?」
「な、んでって、失敗したのを、見せたくないもの…」
「ニケが作ってくれた物なら、僕は食べるよ」
「べ、別に貴方に作ったなんて誰も言ってないじゃない!」
「違うの?」

一瞬だけ油断した隙に距離を詰められ、抱えるように隠していたケーキは机の上に避難させられ、あっという間に私はサルの腕の中にいた。びっくりして私は短く悲鳴をあげるけど彼は全く気にしない様子で私を抱き締める。

「ニケから甘い匂いがする」
「…それはケーキ作っていたからでしょ」
「食べて良い?」
「だ、駄目よ。そんな丸焦げのケーキなんて、美味しくないわ」
「ケーキは勿論だけどニケのことも、食べて良い?」

びっくりして顔を上げれば、彼に私の目尻に溜まっていた涙を舐め取られる。顔を真っ赤にさせ口をパクパクさせて驚けばサルはからかうにくすくす笑う。

「ニケ」
「…サルの、馬鹿」
「馬鹿で結構」

服の裾から入る手付きに身を震わせながら、視界に入る焦げたケーキを眺める。美味しく作れたらこんなことにはならなかったのかしら。ううん、きっとサルだから関係ないわ。自問自答に苦笑しながら、私は目を閉じた。



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