「…レックス、私ホットチョコなんて頼んでいないんだけど」
私は何も注文をしないで、ただ地下でLBXバトルをする約束をしたバンとカズを待つためにカウンターに座っていただけなのに。目の前に出された甘い香りに目を疑った。
「今日は特別だ」
「なにそれ…怪しいわ」
ジト、と目を細めてレックスを見るけど彼は何も言わずにホットチョコを作った器具を片付けていた。頬杖をつきながら彼の背中を見つめて考え込む。今日は特別。あ、と思い付いたように言葉を漏らす。今日は特別だ、つまり今日は、
「確か今日はバレンタインね」
「…バレたか」
「当たり前じゃない」
疑問も解決もしたことだし、この美味しそうなホットチョコをいただこう。一口飲めば、たちまち口の中にまったりとした甘さが広がる。美味しい。
「ねえレックス、器具を片付けたってことはこれから来るバンとカズには作らないってことよね?」
「…そうだな」
「ふふ、案外レックスってかわいいところがあるのね」
「別に良いだろう、俺に可愛いげがあっても」
器具を片付け終わり振り返ったレックスと目が合う。私は彼を向かってにっこりと微笑む。
「ホワイトデー、楽しみにしててね。レックス」