「三国先輩受け取って下さい!」

何故か三国はあたしが思っていたよりモテるらしい。それを知ったのはつい最近、三年に進級してからだ。
観察していると告白だの差し入れしてくるのは皆後輩たち。どうやら部活でも同じように、後輩を寄せ付ける習性があるらしい。しかし、私が隣にいるのによくラブレターなんて渡せるよなぁ。なんてボンヤリと考える。
三国はまだこういうことに慣れないのか、焦っていた。こいつは優しいから受け流すということが出来ないんだ。そのせいでいつも女子たちに変な期待をさせる。あぁ、憎たらしい。(そんなとこも好きだけど)

「…あのさ、君、よく彼女がいる前でこんなの渡せるね」

勢いに飲まれて三国が受け取ったかわいらしい封筒を指先で摘み上げる。私にとっちゃゴミみたいな物だもん。こんな持ち方で十分だ。
女の子はそれにショックを受けたのかなんだか知らないけど、ポロポロと涙を溢した。泣けば良いってもんじゃないんだからね。仕舞いには「酷いです、ただ私は気持ちを伝えたかっただけなのに…!」なんて言い出す。
泣きたいのはこっちよ。そうやると、ほら。

「すまない」

三国が謝っている。女の子の肩を持って。そして私に謝れと強要してくる。あぁ、本当に情けない。
ねぇ私よりそんな初対面の子が大事なの?私は三国の彼女じゃないの?

「三国の、ばか」

そう呟いて走り去ってやった。三国が追ってくる様子は、なかった。

×××

「で、俺の所に来たんですか」
「…ん」
「はぁ…俺コンクールの練習があるんですけど」
「聞いててやる」

そう言えばは天パー、もとい神童はまた大きなため息をついた。走っている内に音楽室まで来てしまい、覗けば神童がいたから入って椅子に座っていた。

「…三国さんですか」
「ビンゴ」
「痴話喧嘩なら他所でお願いしますよ」
「喧嘩はしてない」
「じゃあ」
「三国は私を彼女と思ってない」
「三国さんは優しいから」
「私以外の奴にな」
「優しいから、貴方を傷つけてる」
「…うん」

神童は分かってくれるなぁ。なんて考えながら壁に頭を押し付ける。神童の引くピアノの優しい音色が頭に響く。

「眠いから寝る」
「鍵を閉める時に起こします」
「ありがとー…」

ピアノの音が調度子守唄になって、どんどん意識が薄れていった。

「本当に手間が掛かる先輩だ」

神童が何やら言っているのだけ聞こえた。内容はよく分からなかった。


「南沢」
「…しんどー?もう帰、え?」

目を覚ますとふわふわの天パーじゃなくて、ブロッコリー頭。あれ三国?周りを見渡すと音楽室には私と三国の二人だけ。神童の姿は見られなかった。あいつ三国呼びやがったな…。

「…すまないな」
「何に、謝ってるんだよ…」
「お前のことを考えていなかった、と神童に怒られてしまった」

やっぱり神童か。ていうか他人に言われないと分からないこいつは何なんだよ。

「あの子には悪いがちゃんと断った」
「悪い、じゃない。それが当たり前だろ」
「そうだな」
「家まで送る。もう暗いから」
「ん」

窓の外を見ると空は薄暗かった。結構時間がたっていたらしい。三国に手を引かれ音楽室を出て、そのまま昇降口に向かう。

「南沢」
「なに」
「好きだ」
「ん」
「悪い」
「…まずお人好し直せ」
「気を付ける」
「ふん」

私も甘いよなぁ。



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