「私溶けるかも」 「人間は溶けないから安心しろ」 「クーラーつかねぇの?」 「まだつけていい時期じゃないだろう」
広い部室に俺と南沢ただ二人。俺はマネージャーがまとめた資料に目を通し、南沢は俺の目の前の机に顔を押し付け項垂れていた。 確かに今日はこの時期にしては気温が高い。だがまだ部室のクーラーをつけて良い期間でもないので我慢するしかない。じわりと滲む汗に耐えた。
「はーっ、マジ暑い」 「…南沢、ボタンを閉じろ」
パタパタと下敷きで仰ぐ南沢を横目で見ると制服のリボンはとれ、ボタンを第三まで開けてあるじゃないか。いや、元々リボンはつけていないか。そうだとしてもボタンは開けすぎだ。
「なに、目のやり場に困るって?」
南沢はわざと襟に指をかけ、首元を露出してきた。そこからチラチラ見えるのは勿論と言ったら変かもしれないが、下着だ。俺をからかって楽しんでるのか…!俺の顔と反応を見てニヤニヤしてるのが何より証拠。いつもそうだ、と呆れながらノートに目を向けながら口を開いた。
「…あぁ、やり場に困る。だから」 「え」 「だからやめ、え?」
いつも怒ってばかりじゃダメだろうと違う言葉を返してみた。その後に注意しようと思って。すれとどうだ。南沢の驚いた声色。俺もその声に驚いて視線をノートから南沢に移す。目が合った。南沢は柄にもなく表情が違った。頬を染めて眉を潜めて、どうしようと言った表情だ。 それを見て初めて、しまったと思った。これじゃまるで俺が変態みたいじゃないか。否定しようしたが、彼女の何とも言えない表情でボタンを閉め始めたのを見て言葉が出なくなった。大変だ、かなり誤解をされてしまったようだ。怒鳴られるか引かれるかと冷や汗をかいていたら南沢が小さく口を開いた。
「あ、のさ…」 「なん、だ…?」
思わず声が裏返りながら返事をした。するとどうだ、南沢の染まっていた頬が更に染まった。
「そういうこと、言うなよ…」
視線を反らしながら彼女がボソボソと呟いた。いつもと違う様子に不覚にもドキリとしながら反省した。
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