入部当時は雪村先輩、と言っていた。それがいつの間にか後輩の俺は彼を呼び捨てに呼ぶようになった。切っ掛けは忘れてなんかいない、俺が彼より実力をつけて調子に乗ったんだ。

小学校からクラブチームに入っていた俺は、その辺の奴より実力もあって、名門の白恋中サッカー部に入っても、同学年の奴等より群を抜いて強かった。それを証拠に、都市伝説とされていた化身を出した。当時の監督にもキャプテンにも褒められたし誇らしかった。
当時とても気になっていたのが、一つ年上の雪村豹牙。彼はFWとして才能がある、でもそれを使いこなせていない気がついていない。周りですら気が付いている奴も少なくなかったのに。腹立たしかった。理由は分からないけどとにかく腹立たしかった。

「雪村、俺と勝負しろ」

練習中ボールを雪村に軽く蹴った、見ていた同学年の奴が俺を止めようとしたけど、雪村がそのボールを蹴り返したのを見て、やめた。
勝負は、俺が勝った。勝ったのに悔しかった。雪村は悔しそうにしなかった。むしろ諦めたような顔つきでグラウンドを離れた。それがもっともっと悔しかった。
何故その才能を使わない。何故、その才能に気がつかない。
思いきり蹴ったボールは虚しくゴールに入って、転がっていた。


×××

白恋に新しいコーチが就任した、あの吹雪士郎だ。白恋中に、いや北海道にいたら、日本にいたら多分誰もが知ってる名選手だ。部員のみんなも嬉しそうにしていた。
でも白恋のコーチ、よりも雪村のコーチと言った方が正しいかもしれない。練習後は二人で練習をしていたみたいだし、そのお陰が雪村の実力は急成長した。雪村の才能に気が付いてない奴等は目を丸くしていたし、誰もが一軍入りは近いだろうと疑わなかった。
そんな時に、吹雪コーチは白恋を去った。新しくキャプテンになった白咲が言うには「白恋を裏切った」と。白咲はどうもフィフスセクターが派遣してきたシード、だったらしい。
どちらかと言われると革命派だった白恋は、一気にバラバラになった。吹雪コーチに裏切られたと思っている雪村は、当然のように白咲に、フィフスの管理サッカー側についた。そのお陰か、白咲の推薦で雪村は一軍入りをして、背番号10番というエースのポジションを得た。そして、化身を出した。美しい、氷の女王のようなそれは冷たい雪村にはぴったりの化身だ。

「雪村、俺ともう一度、勝負しろ」

雪村は黙って俺との勝負に応じた。前回のように止める奴はいなかった。結果は、俺の負け。化身と力と何より、雪村自信の力に負けた。吹雪コーチに随分鍛えられたらしい。悔しいけどすっきりした。自然と笑いが込み上げてきて笑ってしまうと、雪村が不思議な顔で俺の顔を覗き込んだ。

「雪村、先輩には敵わないですね」
「…急になんだよ、それ。すごい気持ち悪い」
「気持ち悪いって、俺だって最初は」
「先輩なんて、俺には似合わないし今までのままで良い」

そっぽ向いて歩き出した雪村先輩がそう言った。意外と大人なんだな、ただ不器用というかなんというか。

「気は済んだのか」
「真狩」
「随分雪村さんに執着してみたいだけど」
「…多分、なんとなくだけど、雪村先輩、いや雪村のこと気に入らなかったんだよな」
「どこ辺りが?」
「んー、わからない」
「…お前なあ」
「でもなんか雪村のこと応援したくなってきた、HRで試合、勝たなきゃな。革命とか管理とか気にせず」

照れ臭くなって思わず笑うと真狩は目を細めながら笑って同意した。

「俺も負けてられない」

真狩にも聞こえないぐらいの声で呟いて、俺はグラウンドにいる雪村を見る。諦めたような顔をしていたなんて思えない程にサッカーに打ち込む雪村が、なんとなく好きに思えた。



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