※剣城と神代(スカウト)


「神代」

部活も終わって着替えを済まし、お世話になっているマネージャー専用の部屋から出ると、正面の壁に剣城さんが寄り掛かっていた。いつも申し訳ないなぁ、なんて苦笑しながら私は剣城さんに駆け寄る。

「待ってたの…?」
「ん」

帰るぞ、と彼は寄り掛かっていた壁から離れサッカー棟のロビーを歩き出す。
部活後に私と剣城さんが一緒に帰るようになったのは、学校周辺に不審者が出るようになったからだ。監督や音無先生も女子は男子と帰るように、そう言ったから、帰る方向が同じ剣城さんと下校するようになった。あれから考えてみたら数ヵ月。あれだけ頻繁であった不審者の目撃情報はもう全く聞かない。一緒に帰る必要なんてないのに、なんて思いながらも最近は辺りが暗くて気味が悪い。一人で下校は、つらいものがあるし剣城さんには感謝もしている。

「いつもありがとう」
「…別に、部員が不審者に襲われたらたまったもんじゃないからな」
「最近その不審者、目撃情報ないけどね」

息が白く出そうなくらいに寒い帰路を歩きながらそう言う。そろそろセーターが必要かな、なんてぼんやり考えていると隣を歩いていた剣城さんの足が止まる。振り返りどうしたの、と聞けば「あぁ、いや」と変に濁すだけ。

「剣城さん?」
「やっぱり神代は、一人で帰った方が楽か」
「…まぁ、その方が気は楽だけど、剣城さんと帰るの楽しいから嫌いじゃないよ」

たまに聞くお兄さんの話とか、サッカーの話とか面白いから。そう続ければ剣城さんは「そうか」と口元を押さえながら言う。
街灯に照らされた指はとても赤く冷たそう。口元を押さえていない手にそっと私の手を重ねる。あぁ、やはり冷たい。剣城さんは私よりもっと背が高いから、上から驚いた声が降ってくる。

「手、冷たいのね」
「あ、あぁ、冷え性だから、な」
「そう」
「あ、おい神代!」

捕まれた手がそのまま引かれたから更に驚いた剣城さん。このまま帰ろうと、視線で訴えると剣城さんは何かを言いたげに言葉を詰まらせたが、それを飲み込みまた歩き始めた。
私に合わせた歩調と並べた肩は数ヵ月前と変わらない。だけど指先から伝わるひんやりとした体温は今日が初めて。自分でも驚くぐらい、人に触れている。ふふ、と笑うと剣城さんが不思議そうにこちらを見たけど、私はそのまま前を見て、帰路を歩んだ。



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