※アミが吸血鬼



「ア、ミ…っ」
「静かにしててカズ」

カズの口に指を当てて小首を傾げてそう言うとカズは少し震えてこくりと頷いた。頬はほんのり赤く染まっている。あぁ、オトコノコって本当に単純ね。カズはクスリと笑った私を不思議そうに見ていた。そんなカズを無視して元から晒されていた胸元のボタンを開ける。ブレザーとネクタイはもう路地裏の少し湿った地面に落ちていた。大きく晒された首の付け根辺りをじっと見つめる。白くて良いわ、とても美味しそう。カプリと噛みつけばカズは大袈裟に震えた。噛みついた所から出る血を私は吸う。

私の父方の先祖は吸血鬼だったらしい。でもどこかから人間と結びついて、どんどん吸血鬼の血は薄まっていったから今は殆ど私の家系に吸血鬼の人はいない。両親も普通の人間。でも稀に私みたいな定期的に血を吸わないと生きていけない者が出るらしい。私はその辺の男を捕まえているから血には特に困らないし、吸血後はみんな意識がふらふらしているから私のことは覚えていられない。とても好都合なのだ。

「アミ、アミ」
「ん…っ」

カズの血にはたまにお世話になっている。この路地裏には人は全く来ないし、ゆっくり、ご馳走が食べられる。

「ごちそうさま、カズ」

傷口をペロリと舐めるとカズは意識を手放した。いつもありがとうカズ、都合良く忘れてくれて。
さてとカズが起きるまでここにいないといけないのか。私は気を失ったカズを壁際に座らせてあげようした、その時だった。カシャン。背後から物を落とす、そんな音が聞こえた。血の気が引く。一気に冷えた身体で恐る恐る後ろを見る。通りかかった野良猫であってほしい、もしくは風で物が落ちたとかそういうことであって欲しい。
でも現実は違った。

「川村アミ…?」
「仙道…、ダイキ」

またまた通り掛かったみたいではなかった。仙道の顔は少し真っ青だ。最悪、人に、しかも知り合いに見られるなんて。瞬時に私はどう口止めしようか迷った。カズと同じ血を吸えば忘れてくれるかしら。でも力で年上の仙道に勝てるなんてとても思わなかった。

「何、してるんだい」
「っ、何してるように見えたのかしら」

強がって見るが逆効果だったらしい。仙道の真っ青だった顔はどんどんいつもの余裕たっぷりの顔に変わっていった。頭の良い仙道のことだ、全てを理解してしまったのだろう。本当厄介な男、大嫌い。

「へぇ、吸血鬼か何かなのかい?随分フィクションらしいねぇ」
「…見てたのね、悪趣味」
「悪趣味はどっちだい?お友達の血を吸って」

完全に仙道のペースだわ、表情には出さないが焦ってしまう。このままじゃマズイ、だって弱味を握られたものじゃない。

「…いつも青島カズヤの血を吸ってるのかい」
「え?あ、いやたまに…よ」
「他には?」
「…何で答えなきゃならないのよ」
「自分の立場、頭の良いお前が分かってない訳じゃないよねぇ?」

本当に、最悪。キッと彼を睨んでやったが無駄だったみたい。仙道は憎たらしく笑っていた。

「他には、その辺で私に絡んできた人の血、とか」

彼は興味なさそうにふーん、と言う。自分が聞いてきた癖に何よその態度!でも悔しいけど私のが立場的に下だから下手に口を出せない。絶対にバンや周りにバラされたくない。

「固定はしてないんだ」
「…そうね」
「じゃあこれから俺の血を吸いな」
「あぁそう…、え?」

何を言っているの。彼を見てそう言ったが彼は笑ったままだった。私には意味が分からなくて、ただ、仙道の顔はとても面白いおもちゃを見つけた子供のようだった。


//吸血少女Aの憂鬱


(フォロワーさんよりネタ提供!)



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