「悠介さん、Trick or treat.です」

彼女はにっこり笑ってそう言ってきた。確か何か持っていたはずだとポケットを漁ると苺味の赤い飴玉が一つあった。それを彼女の小さな手に乗せると、アミくんは瞳をぱちぱちと瞬きをさせてその飴玉と私を交互に見た。

「意外ですお菓子持っていたんですね」
「実は今朝霧野くんに貰った物なんだ」
「…残念」

封を切られた赤い飴玉は彼女の口の中へ入っていく。甘い、と彼女は微笑んで小さく呟いた。

「ところで悠介さんは私に聞かないんですか?」
「何をだい?」
「Trick or treat.って」
「私は大人だからお菓子はいらないよ」

気遣いありがとうと彼女の頭に手を乗せてそのまま撫でる。するとアミくんは私の手を退かして私を見上げた。どこか不機嫌そうだ。

「私、悠介さんに物貰ってばっかり」
「嫌かい?」
「少し」

子供なんだからまだ甘えても良いものなんだが。苦笑しなら仕方がないとそれを言ってみる。

「Trick or treat.」
「…悠介さん発音良いですね」
「仕事上英語を話す時もあるからね」
「そういうことですか。あぁ、お菓子ですよね」

待っていてください。と背負っていたショルダーバックを開けてお菓子を探すアミくん。お菓子はあまり興味がないのだが、苦笑しつつそんな彼女を眺める。すると突然彼女の動きが止まりゆっくりと顔を上げて私を見た。どうしたんだい?と私は彼女に聞く。アミくんは申し訳なさそうに呟いた。

「お菓子、さっきバンたちにあげたので終わっちゃったみたいです…」
「残念だがそれは仕方がないな」
「だから、その」
「なんだい?」

手を合わせてもじもじとする形でアミくんは私を見る。お菓子がない。それと同時に先ほど自分の言った言葉の意味に気がつきハッとする。お菓子がない、つまり。

「イタズラ、してくれます?」

小首を傾げて困惑したような、そんな表情。くらりと目眩がした。


//Trick me?
(実はチョコレートが一つ鞄に入ってるのよ悠介さん)(言わないけどね)



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